結婚式だろうが、葬式だろうが営業し続ける

夜の1時に閉めて、朝の5時に再開するのでもいい。せめて深夜の数時間、安眠できる時間がほしい。それが本音だ。この年になって、あらためて自分のやっているこのコンビニという商売の気違い沙汰を思う。ちなみに私は本書の執筆時点で約3年間、1057連勤している。1年365日、1日24時間、結婚式があろうが、葬式があろうが、とにかく営業し続けねばならない。しかもそれが一個人の小さな小売店にすぎないのだ。

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息子が子ども時分、年に一度は国内1泊旅行ができた。パートさんに1日だけ精算業務をまかせて、ディズニーランドやUSJ、志摩スペイン村などへ連れて行った。ただ、1泊2日で遊びに出ようと思うと、その前後には通常の倍の仕事をこなさねばならない。おにぎりの発注(*8)ひとつとっても、ふだんなら20種類の商品を、数時間ごとに見直して調整しながら発注している。だが、店を空ければそうした調整はできない。

翌日、翌々日の2日分を予測して発注していく。弁当もサンドイッチもいまだ売れてもいない、届いてすらいない段階で、見切り発車(*9)で数十個発注するのは勇気がいる。遊びに出かけたときにも、行く先々で何度も店から電話(*10)が入る。

(*8)発注 午前10時までに発注業務を終え、本部へ送信しないと、翌日おにぎりも弁当も何も届かないこととなる。1秒でもすぎればアウトなので、9時半から10時になるまでのあいだ、発注係の夫は神経を尖らせている。この時間はうかつに話しかけられない。
(*9)見切り発車 若いころ、パチンコ屋に通いつめていた夫は「コンビニ経営は毎日がギャンブルだ」と悟った。それ以来、「もうこれ以上の賭けごとはしたくない」と言い、一切のギャンブルをやめてしまった。
(*10)何度も店から電話 ほかにも「チキンが温まっていないとお客さまが激怒しています」なんて電話が入るのは日常茶飯事で、もう慣れてしまった。仕事から完全に解放されるのは、10年ごとの契約更新によるリニューアル工事で店が閉まっているあいだだけだったといえる。それだって新店舗開店準備にバタバタでゆったりできるわけではない。

遊園地のアトラクションに乗っていても楽しめない

もうずいぶん前、家族でディズニーランドの「カリブの海賊」に並んでいたとき、ケータイが鳴った。

「マネージャー、すみません。贈答品を購入されたお客さまが、熨斗のし紙に名前を書いてほしいと言うのですが、筆ペンで書ける者がいなくて……」
「それじゃ、お客さまに筆ペンをお渡しして、今、書ける者がおりませんので、申し訳ないですが、ご自身でお書き願えませんかと伝えて」

いったん電話を切るが、さっきまでの楽しい気持ちは吹き飛び、バイトの子で対応は大丈夫かと心配がつのる。そして、1分後――。

「どうしても書けないとおっしゃっているのですが、どうしましょうか?」
「下手でもよろしければ、と断って、それでもいいとおっしゃるなら、あなたが丁寧に書いて差しあげて」

そうこうしているうちに順番が来たが、海賊船に乗っているあいだも店が気になってマナーモードに切り替えたケータイ(*11)を握りしめていた。親戚に結婚式があれば、半年も前から「この日は私たちはいないので、絶対休まないでね」とパートさんやバイト学生に頼み込み、万一の場合を考えて予備スタッフを確保しておかなければならない。

あらかじめ予定のわかっている結婚式はまだいい。先日、叔父が亡くなった。この店を出したときにも何度も足を運んでくれ、あれやこれやと買い物をしていってくれた恩義のある叔父だった。夫と一緒に葬儀に出席しようとしたが、人手が足りない。休みのバイト学生やパートさんたちに片っ端から電話をしたが、日が迫っていることもあり、みなNGだった。

(*11)ケータイ シフト管理をしている者にとっては“恐怖の必需品”だろう。肌身離さず持っていて、寝るときには枕元に置いてある。なんと言っても「○○君が来ないんですけど……」にはいつも身が縮む。遅刻常習者なら「またか」だし、遅刻などしたことのない人なら「事故でも起こしたのでは……」と心配になる。