いちばん大切なのは「成功」ではない
「もともと私はキャリアウーマン志向じゃない。成功のためには手段を選ばない人もいますが、私にとっていちばん大切なのは家族。ほんとうは、子どもが学校から帰ったら、必ず家にいて迎えてあげるお母さんになりたかったんです。私の母がそうだったから……。だから妊娠する度に、『この子が生まれたら、もう仕事はやめる!』と騒いで、周囲を慌てさせていました」
長女の出産前の最後のコンサートでは、胸に秘めていた引退の決意が無言のうちに伝わったのか、終了後、数人の女性ファンに囲まれて、「何があっても音楽をやめてはだめよ!」と激励された。
「それだけではなくて、一人のおばあちゃんが、私の手をぎゅっと握りしめて、『あなたの音楽はソー・ビューティフル! 美しい音楽をありがとう!』と、涙ぐみながら、何度も何度も繰り返すんですよ。そんなことがあったので、私は何か“お役目”をいただいているのかな、簡単にやめちゃいけないのかな、と思い始めたんです」
次女を妊娠中にレコーディングしたアルバムのタイトルは『Sapphire』。生まれてくる子の誕生石だ。「これでほんとうに最後」と思いながらつくったこのアルバムが、従来の倍のセールスを記録し、やめるにやめられない状況になったという。
どうやってオリジナル曲を作っているのか
作曲するときは、自分で曲をつくり出すというよりも、フレーズやメロディが(天から)落ちてくるように感じるという。それを彼女は、「曲が届く」などと表現する。
「メロディが聞こえてくるときは無の状態。いつ落ちてくるかわかりません。私のもとに届いた音楽をみなさんに聴いてもらって、平和と調和の空気を生み出す。それが自分の天命だと思っています。ここまで来られたのはファンのみなさんのおかげですが、曲が届き続けていることも大きいですね。大御所ミュージシャンも、ある年齢になるとオリジナル曲を出さなくなるでしょう? 新しい曲が書けなくなるからだと聞いて、私もそうなるのかな、と怖くなりました。でも、ありがたいことに、今も曲が届いてくれるので、30枚目のアルバム『EUPHORIA』を出すことができました」
『EUPHORIA』というタイトルの意味は、多幸感である。
コロナ禍でリモート制作を余儀なくされていたスタジオ・ミュージシャンが、久しぶりにスタジオに集まって録音をした。その高揚感を表しているという。
「『こうして一緒にスタジオに入って、みんなで録音するって最高だよね!』と、しみじみ言っていたんです。それぞれの音にも、そんな喜びがあふれていたので、この言葉がぴったりだな、と」