危機のポジティブな側面を引き出す経営

経営にかかわる人としての矢萩氏の歩みは、危機と向き合い、直面する経営の矛盾から新たな発展を生み出してきた歩みでもある。日本は自然災害の多い国である。やまがたさくらんぼファームでもそうであったが、この国土において組織が存続していこうとすれば、東日本大震災やコロナ禍のような、大きな災害の影響を繰り返し乗り越えていかなければならない。

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さらにいえば、旅行形態が団体型から個人型に変わっていくなどの人々の生活や社会の変化も、事業の存続を脅かす危機となる。そして危機は外部からもたらされるだけではなく、経営の方針の対立や財務状況の悪化など、内部からも生じる。

だが、危機にはポジティブな側面もある。危機は企業に新たな学びを生み出し、組織のあり方を改善する契機ともなる。このような危機のポジティブな側面を引き出すこともまた、経営の役割である。

観光果樹園のサクランボを通販で出荷

矢萩氏は、東日本大震災の際に売り上げを大きく減らした悔しい体験を、コロナ禍のもとでの素早い行動につなげたり、社内の対立や財務の問題を、よりよい経営を実現する契機としたりすることで、やまがたさくらんぼファームの成長を導いている。

本書のフィナーレは、コロナ禍の大逆風のなかで、やまがたさくらんぼファームが過去最高の売り上げを実現していくストーリーである。ピンチはチャンスとなる。そしてそこでも、経営者としての矢萩氏の資質が発揮されている。

2020年のサクランボ狩りのシーズンを前に矢萩氏は、観光果樹園の閉園に踏み切った。この年には、コロナ禍のために毎年2万人の来園者が0人になる。そして矢萩氏は、この観光果樹園用のサクランボを通販での出荷に切り替える。