「環境」「組織」「矛盾と発展」の3つのマネジメント

矢萩氏の経営感覚のよさは、この3つの課題への取り組みがバランスよく行われていることからも見て取れる。環境のマネジメントについては、やまがたさくらんぼファームでは、サクランボを栽培し、出荷するだけではなく、観光果樹園への集客、eコマースによる販売などを通じて新しい顧客の獲得を進めてきた。

さくらんぼ
写真=iStock.com/kellymarken
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このプロセスの時々において、矢萩氏は経営上の新しい判断や行動を迫られてきた。たとえば、観光果樹園に多くの団体ツアーを呼び込もうとすれば、旅行代理店などへの営業が必要となる。eコマースに取り組むには、ウェブサイト構築の発注やSNS活用の知見の入手が必要になる。

加えて、これらの取り組みのなかでやまがたさくらんぼファームは、観光や通販の顧客に向けて、カフェを設け、オリジナルのジュースなどの加工品の提供を行うようになっている。さらにそこでは、地元の委託生産先などとの関係づくりが必要となる。このように、矢萩氏は時間の流れのなかで、新たなパートナーや仕入れ先の確保など、必要となる課題を見定め、行動を進めている。

広がる活動を束ねる「理念の共有」

一方で、矢萩氏は、やまがたさくらんぼファームの分業と協働を導き、望ましい方向へと組織の行動を進めることにも怠りなく取り組んできた。この組織のマネジメントにかかわる課題をめぐっては、矢萩氏は経営理念を中心にすえた実践を進めてきた。

現在のやまがたさくらんぼファームに必要な仕事は、果樹の栽培から、観光果樹園やカフェ、そしてeコマースなどの運営へと大きく広がっている。矢萩氏は、そこで必要となる果樹栽培のノウハウ蓄積、スマート農業の導入による働き方の改革、果樹の加工品の開発、ホームページづくり、SNSなどでの情報発信などの仕事の進め方を、社内の人たちとともに一つひとつ学びながら、手順を定めたり、改善したりしていくことにもかかわっている。

このように広がっていく仕事に対応するには、社内の人たちに権限を委譲することが必要になるが、そこでは、社内の人たちと経営者が方向性をすりあわせるために、立ち返るべき経営理念を共有することを大切にしている。