血糖値を上げない健康食品の落とし穴
糖にはたくさんの形があり、たくさんの名前がある。スクロース、デキストロース、グルコース、マルトース、ラクトース……。どこが違うのか? なぜ注意が必要なのか? どれも血糖を急激に増やし、食欲と脂肪の貯蔵をコントロールするホルモンを勝手にいじる。だが近年、ある甘味料が、物議をかもしている。私たちの食の環境の隙間から、音も立てずに忍びこんでくるその甘味料は、果糖だ。
果糖は、ブドウ糖とは別の経路で吸収される。つまり血流を利用せず、特急列車に乗って肝臓に到達する。
果糖は血糖を増やさず、インスリンの分泌も増やさない──少なくとも最初は。たいていの食品メーカーは、この違いを利用して、果糖で甘味をつけた食品を健康志向の顧客や糖尿病患者に売っている。
果糖はすぐに血糖に大きな影響を与えることはないが、頻繁に摂取すれば、いずれ血糖が増える。なぜかというと、肝臓に負担がかかって炎症が生じ、細胞が血液からブドウ糖を「吸い上げる」力が損なわれるからだ。これは人類が自然界にある旬の果物を食べて脂肪をたくさん貯蔵できるように適応した結果かもしれない。だが現代では、それが糖質を摂ると二型糖尿病の発症率が跳ね上がる理由になる(今こそ、果糖の含有量が多い甘味料──たとえば90パーセントが果糖のアガベシロップなどが、健康志向の人や糖尿病患者にとって本当に正しい選択なのかを問うべきだろう)。
遺伝子を傷つける危険な「果糖」
果糖の複合効果は、脳内の遺伝子の発現を変化させるかもしれない。UCLAの研究チームは、毎日ラットに1リットルの炭酸飲料と同量の果糖を与えた。6週間後、ラットに典型的な錯乱が起きはじめた。血糖とトリグリセリド、インスリンが増えて、認知機能が崩壊しはじめたのだ。水だけを与えられたマウスと比べて、果糖を与えたマウスは、迷路を抜けだすのに2倍の時間がかかった。
だが何より研究チームを驚かせたのは、果糖を与えられたほうのラットの脳で1000に近い遺伝子が変わっていたことだった。その遺伝子は、愛らしいピンクの鼻やふさふさのヒゲをつくるためのものではなく、パーキンソン病やうつ病、双極性障害などに関わる人間の遺伝子と同種のものだった。
この遺伝子破壊は非常に深刻で、UCLAが発表した記事によれば、研究チームを率いるフェルナンド・ゴメス・ピニーリャは、脳への影響という観点から「食品は医薬品のようなものだ」と述べている。
だが、食品の力はポジティブな方向にも働く。果糖は認知機能と遺伝子発現の両方にネガティブな影響を与えたが、その影響はラットにオメガ3系脂肪酸のDHAを与えると軽減したという。
アメリカの530万人の外傷性脳損傷の患者にとっては、糖質の過剰摂取による脳の負担を避けることが、状況改善の鍵となるかもしれない。果糖を多く含む食事は、ラットの脳の可塑性を損ない、その結果、頭部の外傷の治癒力が低下した。ラットと人間は同じではない。だが脳の損傷は、実験動物で簡単に再現できる器質性疾患だ。自然な形ではラットやマウスに発症しない複雑な疾患とは違う。