悪意を隠しているつもりでも
なんだかんだ言って、社会人にとって「仕事」は、自分のアイデンティティを構成する重要な要素です。人によっては「会社」が同じ役割を果たすこともあります。
自分の中で自分の価値を上げるために、隙あらば他人の仕事を見下したくなるのは、残念ながら一種の本能と言っていいでしょう。しかし、本能のおもむくままに発言したら、周囲から顰蹙を買って自分の株を下げてしまうのは確実。「他人の仕事を見下すなんて恥ずかしいし」という理性も歯止めになって、私たちは日頃、その邪悪な欲求から必死で目をそらしています。
気を付けたいのは、自覚がないまま“見下し感”が漏れ出てしまう事態。言う側は悪意を隠しているつもりだけど、それが透けて見えているケースもあります。当研究所が独自のノウハウで収集した「見下されたと受け取られそうなセリフ」の例をご紹介しましょう。
・「ニュースでやってたけど、コロナの影響で○○業界はたいへんなんでしょ。おたくは大丈夫?」
→心配しているように見せつつ、心の奥底では「悲惨な話」を聞いて安心したがっている。エッセンシャルワーカーの人に、一時期よくかけられた「コロナに気を付けてね」というセリフも、危険な存在扱いしているように聞こえかねない。
・「会社でパソコン打っていれば給料もらえるんだから、いいよね。俺は体を動かすしかないからな」
→要は「楽な仕事しやがって」という意味。「体を動かすしか云々」も謙遜ではなく、「お前もやってみろ」の意味が込められている。
・「そんなたいへんな仕事、よくやってるね。自分には無理だな」
→単に「たいへんな仕事だね」だとやさしいねぎらいの言葉だが、この言い方は明らかに見下している。「いい給料がもらえるわけじゃないんでしょ」と続く場合も。
・「専業主婦って、今やある意味セレブだもんね。うらやましいな」
→働く女性から専業主婦に。素直に受け取るのは難しい。「仕事してないとつまんなくない?」と、気遣う形を取りつつ見下すパターンも。
・「お前は自由でいいな。サラリーマンなんてつまんないよ」
→フリーランスに対する誤解に基づいた定番の失礼。個人的な経験では、いわゆる大企業に所属する会社員ほど、こう言いたがる傾向がある。もしかして遠回しな自慢?
・「自分みたいなのは、組織の中で生きられそうにないからさあ」
→フリーランスが会社員に向けて言いがち。強がりと対抗意識が複雑に渦巻く。優位に立つセリフのつもりだが、相手は心の中で「たしかに無理だな」と逆に見下す。