労働市場へ参入する前に課題はいくつもある
そんなわけで、多くの州首相から出ていた「難民審査を国境で行い、見込みのない人は入国させない」という案は立ち消えで、せっかくの会合はモラルと左翼思想に支配されたまま終わった。ただ一つ、連邦政府が渋々ながら決めたのは、州政府に対する10億ユーロの追加予算。しかし州政府は最初から、「こんなものでは足りない」と怒っている。
そもそも中央の政治家は、地方の苦難を認識しているのかどうか? 社民党も緑の党も、いまだにメルケル前首相の「われわれはやれる!」にこだわったまま、人道にすべてを紐付けた、無理な難民政策に固執している。その上、最近では、気候温暖化による環境破壊や、LGBTへの迫害も難民資格として認められるようになってきたので、認可のハードルは低くなる一方だ。
もちろん、ドイツの経済力があれば、100万人の難民ぐらい養おうと思えば養えるかもしれない。しかし、いくらお金を使っても、中東難民がドイツ語を速やかにマスターし、労働市場に参入できるかといえば、そうではない。彼らの多くにとっては、基本的人権や民主主義すら、当たり前ではないこともある。
「4人に1人が満足に字が読めない」事実が示すもの
5月に公表された小学校4年生の学力テストの結果によると、4人に1人が、満足に字が読めなかったという。原因として、コロナによる長期の学校閉鎖や、コンピューターゲームなどが挙げられていたが、一番の原因は、ドイツ語を母国語としない家庭が増えていることではないか。普段、あまりドイツ語を使っていなければ、うまく読めなくても不思議はない。そして、これも長期的にはドイツの抱える問題となる。
いずれにせよ、今、しばし立ち止まって、難民の受け入れ方法について、もう一度議論し直しても、それが人種差別であるはずはない。どうにかして流入する難民の数を減らさなければ、このままでは国民の不安や不満が膨らんで、社会が不穏になっていくだろう。
しかし、実際のドイツ政治はその正反対で、政府は5月19日、外国人の帰化を簡易にする法案を発表した。皆がドイツ国籍になってしまえば難民問題が消えるというわけでもなかろうが、ショルツ政権のやることはよくわからない。ドイツは今後、エネルギー高騰による経済停滞が予測されているが、さらに難民問題も経済の足を引っ張る大きな要因となるかもしれない。