「人道的なドイツ人」が難民を拒絶する深刻さ

人道的でありたいという願望の強いドイツ人は、これまで全力を尽くして難民をサポートしてきた。ところが3月末、世論調査機関のアレンスバッハが公表したアンケートでは、回答者の6割が、「ドイツはこれ以上、無制限に難民を受け入れることはできない」とし、5割は、現在法律で認められている難民の権利を縮小すべきだと答えた。また、85%の人が、難民は雇用の改善にも社会の多様化にも役立たないと考えている。

2015年、メルケル前首相の無責任な「難民ようこそ政策」で、国中が大混乱に陥った時でさえ、国民はここまではっきりと難民を拒絶することはなかった。それどころか、その後、難民由来のさまざまな問題が膨らんできても、国民はなおも難民をサポートしたのだ。ところが、今、難民援助のモチベーションは、危険なほどに落ち込んでいる。

特に市町村の政治家は、役場の職員や住民の抱える問題を間近で味わっている。幼稚園や学校では、保育士や教師がドイツ語のできない子供たちのケアに追われ、役所はどんどん膨れていく解決不能の課題に押しつぶされそうだ。当然、予算も底をついている。

ベラルーシ、ゴメルの通りで、疲れた女性たちは寒さの中に座っている
写真=iStock.com/Sviatlana Lazarenka
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国民の善意も限界がきている

そうでなくても住宅事情の悪いドイツでは、家賃が高く、多くの人が住環境に満足していない。ところが、難民のためには小綺麗でコンパクトな住宅が突貫で建設され、税金も払っていない人たちが入居するわけだから、当然、国民の不満が募っている。

また、一部の託児所では、ウクライナの子供たちにも平等に門戸を開き、皆で「譲り合う」方式をとったところ、託児所自体が機能しなくなり、元々いた子供たちの母親が働きに行けなくなってしまうという悲劇まで起こった。

ただ、これまでは、それらに対する苦情は人道に反するとして、極力、抑えられていた。しかし、今、その不満が一気に吹き出している。国民の善意にも限界があるのだ。

5月9日、これら危急の問題について話し合うため、連邦政府と州政府の内務大臣が一堂に集った。ただ、連邦政府では緑の党が力を振るっており、彼らは基本的に難民はすべて入れる方針だ。それどころか、州レベルでも、緑の党や社民党が政権を握っている州では、規制の方向にベクトルは働かず、難民資格がない人間の母国送還さえ拒絶している。ましてや難民を減らすための解決策など出るはずもない。