犯罪組織の口車に乗せられて来る人も

ウクライナは貧しい国で、政治の腐敗はつとに有名だった。だから、国民は政治に愛想を尽かしており、かねてより豊かな生活を求めてドイツに移住したい人たちが多かった。つまり彼らにとっては、ウクライナ人というだけで自動的にドイツ滞在が認められる今はまたとないチャンスなのだ。

G7広島サミットで、ウクライナのゼレンスキー大統領(左)と握手するドイツのショルツ首相=5月20日、広島県
写真=ThePresidentialOfficeUkraine/dpa/時事通信フォト
G7広島サミットで、ウクライナのゼレンスキー大統領(左)と握手するドイツのショルツ首相=5月20日、広島県

しかも、戦争は簡単に終結しそうになく、人手不足のドイツのこと、職さえ確保できれば、1年ビザが永住ビザに切り替わる可能性は限りなく高い。それもあり、戦争勃発以来、ドイツのあらゆるところでウクライナ・ナンバーの車を見かける。中には高級車も少なくない。

しかし、問題はウクライナ人以外の難民だ。シリアやアフガニスタンのように難民受け入れが認められている国にせよ、違法に入国してくる北アフリカ諸国やバルカン半島からの難民にせよ、どちらも若い男性が圧倒的多数(そうでなければ、ハードな道中をドイツまでたどり着けない)。そして、彼らのほとんどが、内乱のためというより、貧困のために祖国を後にしている(本来、ドイツは経済難民は受け入れていない)。

しかも、彼らの多くは、ドイツは天国のような国で、仕事があり、皆が豊かになれるという犯罪組織の口車に乗せられて来ている。ドイツのテレビでは時々、元難民で、今では大学に通う優秀そうな学生や、まじめに技能を学び、しっかりとドイツ社会で働く模範的な若者の姿をルポとして放映するが、これは例外的にうまくいった例であり、幅広い現実を表しているわけではない。

2人に1人が無職、年1500億円の費用がかかる

それどころか現状は、2015年、16年に入った中東難民でさえ、いまだに職に就いているのは半数ほどで、受け入れ後15年が過ぎた2030年になっても、彼らにかかる国の持ち出しは年間10億ユーロ(約1500億円)になる予測だという。中東難民を安い労働力として活用するはずだった政界、産業界の期待は、とっくの昔に外れている。

そこに今、難民の第2弾の大量流入が起こり、あちこちに、職がなく、エネルギーだけはあり余った若い男性たちが、パンク状態の収容施設で暮らしている。審査までの待ち時間は長く、必ずしも明るい希望があるわけでもない。自治体内では自由に動き回れるとはいえ、当然、ストレスや欲求不満は募り、捨て鉢になったり、精神に異常をきたしたりする人もいれば、犯罪に走る人も現れる。

実際に昨年から、難民によるナイフを使った殺傷事件が急激に増えた。仲間内の抗争だけでなく、小学生や中学生の女の子が殺傷される事件も、複数起こっている。難民収容所が置かれた田舎の小さな町などでは、女の子を持つ家庭で不安が高まっているし、女性が林の中を1人でジョギングするのをはばかる状態だ。今では、どこかに新しい難民収容施設ができるとなると、近所の住民の間でものすごい抵抗運動が起きる。入居直前に放火された施設さえあった。