コマツの成長を支える「KOMTRAX」

世の中で教育が一番変化しにくい分野の一つだ。山本七平氏は、『一下級将校の見た帝国陸軍』の中でそう述べる。太平洋戦争のさなか、南方のジャングルでアメリカ兵相手に戦う日本陸軍において、対アメリカ向け戦争教育が「ア号教育」という名で始まったのは、戦争が始まって2年にもなろうかという昭和18年8月だったという。そのときまで行われていた教育とは、陸軍の仮想敵であったソ連相手に、満州の荒野で戦車を動かし大砲を打ち合うような戦いを想定した学習だったというのだ。

閑話休題。一番変わりにくいはずの教育分野において、成果判定の方法が変わり始めているくらいの世の中なので、変化の激しさが売り物のビジネスの世界ではもっと話は進んでいる。

たとえば、コマツは、自社の建設機械のすべてにセンサーを付けているという。コマツの近時の成長は、その新システムによるサービス改良によるところが大きいといわれる。KOMTRAXと呼ばれるシステムで、建設機械の一つ一つにGPS(全地球測位システム)や各種センサーなどを取り付けることによって、機械の現在位置、稼働時間、稼働状況、燃料の残量、消耗品の交換時期などの情報を収集し、販売代理店や顧客に提供する。

簡単にいえば、車両に取り付けたセンサーでデータを集め、ネットワークを経由して、コマツのサーバーに取り込み、顧客や代理店に必要情報を提供するというシステムだ。それにより、なによりメンテナンスサービスの質が向上する。また、GPSが付いているので機械の盗難にもあいにくくなり、それが理由で信用保証が付くとか、稼働率がリアルタイムでわかるので需要予測に役立つといった副産物的な効果も大きい。

トラック用タイヤにおけるサービスの取り組みも興味深い。ブリヂストンは、運送業者向けにタイヤソリューションを提供する。そこでは、業者のタイヤ使用状況を調査し、摩耗状況を把握し最適なプランを提案し、以降も使用状況やコスト削減状況をチェックしようというものである。この話を知るC.K. プラハラードは、いずれタイヤにセンサーがつき、建設機械と同様、遠隔での監視や測定を実現するだろうと述べる(『イノベーションの新時代』日本経済新聞社)。それにより、タイヤをめぐるビジネスモデルは大きく変わる。第一に、タイヤというモノの販売ではなく、タイヤにかかわるサービスの販売がビジネスの核になる。それにより、一過性のタイヤの売買取引から、タイヤ使用の継続的なサービス取引へと変貌する。そして、運送業者相手のB2Bビジネスから、個々のドライバーの安全性や技能を高めるB2Cの個人向けビジネスに変貌する。

建設機械やタイヤビジネスにおけるこの劇的な変化は、最初に紹介した英語教育のそれと、まったく同じ性格のもの、つまりプロセス・ソリューションを目指す試みなのだ。

お客さんが本当に欲しいものは何か?

大学もビジネス企業も今や、ドラッカーやレビットの半世紀も前の本をもう一度取り出さないといけないようだ。「私たちのお客さんが、本当に欲しいものは何なのか?」を、問わないといけない。そして、「お客さんが欲しいのは、その製品ではなく、その製品が果たす機能なのだ」ということをあらためて思い出したい。自分たちの事業を根本から再構成し再成長させる機会が今めぐってきている。IBMが「IBMは、コンピュータを売る会社ではなく、顧客の問題を解決する会社だ」と言い、ゼロックスが、「コピーの機械ではなく、コピーのサービスを売るのだ」と述べて、事業への取り組みが近視眼になることを戒め、そして、常に臆することなく事業の再構成・再成長に挑むべきことを企業理念として掲げている。その知恵にも学びたい。

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