「スターバックスラテ」
解決策は、意外なところから生まれた。
山本さんは無類のコーヒー好きだ。自宅リビングには国産の焙煎機とイタリア製のエスプレッソマシーンが鎮座し、毎日お気に入りの豆を挽いて味わいを楽しんでいる。休日の楽しみは都内近郊の有名喫茶店に顔を出すことだ。
ちょうど山本さんが焙煎ごまの使用法で悩んでいる頃は、アメリカ発のコーヒーチェーン・スターバックスが日本に上陸し、徐々に店舗を広げていた時期と重なる。山本さんもスタバに行き、看板商品である「スターバックスラテ」を味わった。
「深煎りの豆を使った強いアクセントのあるエスプレッソでも、たっぷりのミルクをあわせてカフェラテにすればコクとキレが両立できる。ならば深煎りのごまも、ノンオイルではなくドロッとした乳化タイプで使用すれば面白いかもしれない」
通常、乳化タイプのドレッシングは口あたりがマイルドになるものの、味がぼやけてしまう。しかし苦みを感じるぐらい焙煎したごまなら、それがアクセントになり、全体をキリっと引き締めてくれると考えたのだ。
マヨネーズの製造でトップシェアを誇るキユーピーである。乳化技術は折り紙付きだ。
出来上がった試作品の味は…
製造ラインが止まる夜の9時ごろ、山本さんが勤務する研究所の横にある工場に出向くようになった。知り合いの職員に頼んで試作品のテストを始めたのだ。
「コーヒー豆と同じくごまも焙煎後の鮮度、挽いた後の鮮度がポイントです。焙煎したてのごまの風味を新鮮なまま取り込み、香りを引き出すような製法がうちの工場でできないかと考えました」
どんなに良いアイデアでも、既存の施設でできなければ商品化は難しい。幸いにして、工場には使えそうな設備がそろっていた。さらに工場の職員たちは山本さんの試作に協力的だった。
試行錯誤を重ね、考案した独自製法が確立したのが1999年夏のことだった。
出来上がったテスト品を、協力してくれた工場の職員に試食してもらうと、「いままでで一番うまい。これはウチを代表する商品になり得るぞ」と答えた。
『深煎りごまドレッシング』が誕生した瞬間だった。