一口で社内の空気を変えた
山本さんら研究員が新商品を生み出そうと試行錯誤していたころ、営業サイドもヒット商品を出せず悩んでいた。
試作品が生まれて2カ月後、山本さんの同期で商品企画の担当者が研究所を訪ねてきた。
「なにかいい商品はないかな……」
山本さんの上司が何の気なしに試作品の「ごまドレ」を差し出した。口にした瞬間、顔色が変わった。
「これ、今日の会議で出していいですか⁉」
直後の会議で、あっという間に家庭用商品としての開発が決定した。一口食べて伝わる突出した個性は、すぐに社内の空気を「これならいける!」と一変させた。
「これでナンバーワンを取り戻そう」。社内のベクトルが一気にそろっていった。
21年間ドレッシング市場で不動の王者に
2000年2月、「深煎りごまドレッシング」は開発決定から異例のスピードで市場に出た。
当時の反響はキユーピー社内では伝説となっているという。
「先輩から聞いた話ですが、まず棚に並べたら一瞬でなくなったそうです。これは過去のどの商品と比較してもそのスピードが圧倒的に速かったと。ある社員には、店頭で『こんなにおいしいのは初めて』とか、『孫が野菜を初めて食べてくれた』と、お客さまから直接声をかけられたそうです。そんなことなんてまずないですから社内は騒然としたそうです」(家庭用本部 調味料部 ドレッシングチームの林孝昌さん)
勢いそのままに発売から2年後には購買調査においてドレッシング部門で1位を奪取した。
「深煎りごまドレッシングの発売当初は、キユーピードレッシングのシェア率は35%前後でしたが、2年以降の市場シェアは40%を超えるまで伸びました。」(山本さん)
そこから21年間、「深煎りごまドレッシング」はドレッシング市場で不動の王者となっている。
現在の年間の売上本数が約7300万本(180ml換算 2022年1月1日~12月31日)で、単純計算で1日20万本も売れている計算だ。
「ごまドレ」はキユーピー社内において、マヨネーズと肩を並べる看板商品となったのだ。