約1500回の試作を重ねた

ここからキユーピー社員、とくに商品開発部の苦闘が始まる。

「われわれ開発担当には、社内のあちこちから『なぜうちでヒット商品が出せないのか』という突き上げがありました。現場はもう混乱状態でしたね」(山本さん)

まず取り掛かったのは「青じそ風味」のノンオイルタイプの検討だった。試作の回数は約1500回にも上ったが、どれも納得いくものではなかった。

「これを続けて将来があるのだろうか、と不安を抱きつつ、それでもサンプルを作り続けるんですから、まさに絶望的な戦い。ゴールが見えない状態が続きました」

暗黒時代の苦労について語る山本上席研究員
撮影=プレジデントオンライン編集部撮影
暗黒時代の苦労について語る山本上席研究員

ごま油を使わないで、ごまの風味を出したい

そんな「暗黒時代」での悪戦苦闘が、大ヒット商品「ごまドレ」の発明につながる。

当時、ごまと醤油を使った家庭用のノンオイルドレッシング『和風ごま』には、深煎りにしたごまが使われていたのだ。

「ごま油を使わないでごまの風味をどうにか出せないかと思ったときに、深く煎ることで他にはない特徴が出たのです。コーヒー豆と同じでごまも焙煎すると香りが強化されます」

『和風ごま』はそこまでヒットしなかったというが、「キユーピーらしい独自路線のごまドレッシングをつくろう」という開発の流れが生まれつつあったなかで、山本さんは「この商品で、その後の深煎りごまドレッシングの核となる重要な要素が生まれていたのです」と話す。

ごまに関して、キユーピーにはノウハウが大量に蓄積されていた。ごま油を使ったタイプからノンオイルまで、これまでに何種類も商品化してきていたからだ。かつてのナンバーワン商品「中華ドレッシング」もごま油を使った商品である。

ごまは日本人に馴染みがある定番のフレーバーだ。さらに、焙煎ごまという発想は新しいし、キユーピーらしい。ただ、ごまは煎れば煎るほど香りが立つ反面、アクセントが強すぎる。どうバランスをとるべきか。