現代のリーダーの役割は、自ら正解を選び取ることではありません。皆でより正解に近い答えに到達するためのプロセスを踏んでいくことです。

これまでも『決断力』(PHP新書)などで再三述べてきていることではありますが、このプロセスを重視する手法は裁判と同じです。政治においても賛否が激しく分かれる議題については、原告・被告役に分かれ、お互いに徹底的に議論をし、その様子を一般公開して、最後に決定するというプロセスを踏むべきなのです。そして政治的な最終決定は投票による決定です。

マクロン大統領は、今回議会において多数を得ることができなかったのであれば、選挙で勝負に出て、自らの改革案を支えてくれる議員を増やし、最後は議会において賛成多数の議決を得るべきでした。

なぜ、年金支給開始年齢の引き上げが必要なのか、引き上げない場合は将来何が起きるか、引き上げた場合はフランス社会の未来はどう好転するのか――。各専門家も招聘し、賛成派、反対派に分かれてオープンの場で徹底的に議論する。そのうえで議会による多数決によって、改革案が多数の支持を得れば、反対派もある程度の納得感、諦め感を抱き、首都機能を麻痺させるほどの暴動にはならなかっただろうし、一時的に暴動が起きたとしても収束していくと思います。

このように政治では時に正解より皆の納得感が大事になるということでは、僕自身が大きく関わった、大阪都構想の例が挙げられます。

1943年に東京がやったように、大阪府・市を一体化して「都」につくり直す。880万人の大都市に構成し直して、世界の都市間競争に打ち勝つ。これが大阪都構想です。東京も実は43年までは東京府と東京市に分かれていて、喧嘩ばかりしていたんですよね。それが東京都に一本化され、世界の大都市に負けないようになっていった。大阪もそれを目指すというものです。

住民投票のプロセスを取り入れた理由

僕が知事の時に提唱し、当時の市長や市役所は猛反対。だから僕は選挙で有権者に訴え市長に転じました。しかし府議会・市議会も猛反対だったので、大阪維新の会という政治グループをつくり、これまた選挙で訴えて府議会議員、市議会議員の多くの仲間を得て、国政政党をつくって大阪都構想を進めるための法律制定も実現しました。約5年にわたり政治的に激烈な死闘を繰り広げながら、15年に大阪都構想の是非を問う住民投票にまでたどりつきましたが……結果は反対派が賛成派を僅差で上回り、大阪都構想は否決。

実は法律を制定する際には、住民投票を入れ込まないことも可能だったのです。それでもあえて住民投票を入れ込んだ。それも圧倒的に賛成派が多い大阪府全域ではなく、反対派が多い大阪市民のみを対象にした住民投票です。