好きな炭水化物:コメ? パン? 麺?

以上は、おかずの好みであった。それでは、主たるカロリー源である炭水化物の好みの地域分布はどうであろうか。家計調査を使い、同じような手法で描いた分布図を図表2に掲げた。支出額の多いトップ10地域の表も同じように付加しておいた。

われわれが食べる炭水化物の3大食品は「米」と「パン」と「麺」である。家計調査によると穀類の年間支出金額(2019~21年平均)は、米が2万3000円、パンが3万2000円、麺が1万9000円と、合計で穀類全体8万円の93%を占めており、まさしく3大炭水化物というべき存在である(残りは、小麦粉やもちなどの製品である)。

描かれた統計地図を見ると、基本的には、東日本(北海道を除く)では「麺」、東京大都市圏と西日本では「パン」を好んでいるという地域分布が明確である。米どころとして知られる東北や新潟がむしろ麺好き地帯であるのは意外である。

一方、「米」は、北海道、沖縄という日本列島の両極、および北陸の石川より西、そして静岡から和歌山、高知、南九州に続く西南暖地と呼ばれる地域で好まれている。

もっとも、飛び地がある。西日本の中でも讃岐うどんの香川と出雲そばの島根は「麺」に区分される。また、東日本の中でも群馬は「米」に区分される。

消費支出額上位4位の地域を掲げると以下の通りである。

:①北海道、②静岡、③福井、④沖縄
パン:①兵庫、②京都、③岡山、④滋賀
:①山形、②香川、③岩手、④新潟

米は4位までの地域がそれぞれ離ればなれであるのに対して、パンは兵庫をはさんだ両隣りの地域、麺は香川を除くと近県どうしでまとまっている。パンと麺の分布には積極的な理由があり、米の分布はむしろ受動的な結果ではないかと感じさせる。

歴史をさかのぼれば、パンはもともと横浜や神戸といった国際港湾都市や東京など海外文化をいち早く受け入れた大都市、および岡山、広島といった西日本で消費が多かった。そして、食生活の洋風化とともにだんだんと全国にパン食が普及、拡大したが、地域分布としては、なお、当初の地域性が保たれていると言ってよかろう。パン好きの地域は上でふれた図表1の肉好きの地域とも重なっており、相互に関連する側面もあろう。

東日本の麺好きも実は以前からその傾向があったが、近年になってより明確になっている。

「米」好き地域については、かつては全国おしなべて米中心だった状況から、パン好き、麺好き地域が多くなる中で、日本列島の遠隔地ではかつての特色をなお残しているととらえられよう。西南暖地ともいうべき地域がなお米好きということからは、熱帯原産の米の栽培上の適地だという要因も作用している可能性もある。

コメどころ地域でコメ好きというよりむしろ麺好きとなっている点については次のように考えることができよう。東北がコメどころとして発展したのは明治以降の品種改良などで寒冷地でもコメ栽培が安定的に行えるようになったからであり、そう歴史が長いわけではない。もともとは麦やソバ、雑穀を重視した食文化だったわけであり、食の好みなどは食生活の長い蓄積によるものだと考えられるので、そうした意味では、東北がコメ好きというより麺好きであるのも不思議でないといえよう。