1年前は司会をしていたイベントで裏方のバイトをする

2018年、ある町のハロウィンパーティーの司会をした。吉本興業の若手芸人によるライブもある、大掛かりなものだ。

2019年、そのパーティーの主催者の一人であったニイザワさんから連絡をいただいた。

騒動後にもかかわらず、ハロウィンパーティーの司会を「今年も入江さんにお願いしたいんです」という話だった。

ありがたかったが、さすがに「まだ人前には出られません」と断ると、「町の人がみんな入江さんのこと待っているんですよ。顔だけでも出してもらえませんか?」と言ってくださった。

そんなことがあるんだろうかと思ったが、素直にうれしかった。

顔を出しに行くだけなのは申し訳ないので、「じゃあ、アルバイトをさせてください」と、裏方の手伝いをすることになった。

当日、テントの設営やゴミ拾い、ビールなど出店の売り子として働いた。

ステージでは、後輩の鬼越トマホークが司会を務め、1年前と同じように吉本興業の若手芸人がネタを披露していた。ステージに立つ全員がひと際、キラキラして見えた。

ライブが終わると、鬼越トマホークの二人が気まずそうに「僕らが司会ですみません」と挨拶をしに来てくれた。

「もう芸人じゃない自分」を生きるきっかけになった日

ちょっと強がって、「なんで謝るんだよ」と笑顔で言うと、「いや、まさか入江さんとこういう形で再会するとは思いませんでした」と答えた。

入江慎也『信用』(新潮社)

たしかに、彼らも仕事先のイベント会場で、僕がビールの売り子をしているとは思わなかっただろう。

余計な気を遣わせてしまって、後輩たちには申し訳なかったが、この日が「もう芸人じゃない自分」を生きていくきっかけになったように思う。

寂しくはあったが、「ステージに立つ側の人間ではない」という現実を受け止めることで、「今は目の前の、自分がすべきことを精一杯頑張ろう」という方向へ、気持ちを切り替えられたような気がした。

そんなこともあり、より一層大きな声を出してビールを売っていたら、「入江さん、去年の倍売れましたよ」と言われた。

知らない間に入っていた肩の力がスッと抜けた気がした。

このハロウィンパーティーの主催者であるニイザワさんは今、ピカピカ神奈川支店の代表をやってくださっている。

無理やりに人脈を広げていた頃。「お前の言う『友だち』は本当の友達じゃない」という声をたくさんいただいていた。

たしかにそうだった。

でも一方で、僕は「友達」以上の存在にたくさん出会えてもいた。これは紛れもない事実なのだ。

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