「人を仕事としてしか見ていない」親友に突かれた図星
ある日、16歳の頃からの付き合いの地元の親友と飲んだ。
久しぶりに会った親友の前で、僕は全身をハイブランドで包み、人脈や今の仕事について自慢し続けた。
僕の話を聞いていた親友は、
「いっさん(昔からの僕の愛称)、このままだといっさんがいっさんじゃなくなる。壊れていくよ。いっさんは、今は人を仕事としてしか見ていないよ」
と、冷静に告げた。
その言葉が胸の奥、僕の一番触れてほしくないところに突き刺さった。次の瞬間、僕は「何がお前にわかるんだよ!」と、言い返していた。
「今、俺は芸能界で生き残るのに必死なんだよ! 絶対に、俺の気持ちなんかわからないよ!」
激高する僕に反して、親友は冷静なままだった。
「人に会うことによって、大切なものを失っていっているよ。昔のいっさんは損得なく、人と人をつなげていたよ。もう一度、高校時代の気持ちに戻ってほしい」
「今のいっさんはお金はあるかもしれないけど、幸せそうに見えないよ」
僕は何も言い返せなくなっていた。
「入江さんといると疲れます」そう言われても引き返せなかった
矢部をはじめ、周囲の人たちからも同じようなことを言われていた。
「少し休んだほうがいいよ」「生き急いでいるみたいだよ」「何か悪いことに巻き込まれそうだよ」とも言われていた。
ずっと一緒にいた後輩からも「入江さんといると疲れます」「気が休まらないです」「もっと自然体の入江さんが見たいです」と言われていた。
わかってはいるけれど、もう引き返せなかった。
ある夜、社長さんとの飲み会の帰りに後輩にこう言われた。
「入江さん、最近、全然笑ってないです」
芸人なのに笑っていない。笑わせてもいない。人を笑わせたくて、芸人になったのに。
僕は何をやっているんだろう。何がしたいんだろう。
こんなに必死に頑張っているのに、何ひとつ成し遂げていない。
まずは、売れなきゃ。あともう少し、頑張らないと。
でも、どうなれば「僕は売れた」と安心できるんだろう。「あともう少し」って、いったいどれくらいなんだろう。
前に進んでいるつもりが、いつしか道を大きく外れているような気がした。
それでも「友だち5000人芸人」の肩書を手放すことができなかった。ブランド品と同様、何もない僕を守ってくれる鎧だったから。
それを脱ぐのは怖すぎた。僕なんかが丸腰で生き残れる世界じゃなかった。