スマートフォンとSNSの進化が加速を後押し
エレファントデザインの仕組みをさらに進化させたのが米国に拠点を置くQuirkyだ。同社はsocial product developmentという考え方でコミュニティで製品開発を行い商用化する事業をこれまで成功させている。
同社CEOのベン・カウフマンは高校を卒業後、iPodのアクセサリーを販売する会社を立ち上げた。その後、彼がニューヨークの地下鉄に乗っていると、自分が開発したイヤフォンを見知らぬ少女がつけているのを偶然見かけ、自分が生み出した製品が世の中に流通しているのを実感することは素晴らしい経験だと感じる。そこで、同じ経験を他の人たちにも味わってもらいたい、それを手伝いたいと思い、2009年に設立した会社がQuirkyだ。
同社の仕組みはエレファントデザインと似ている。消費者は自分が思いついた製品アイデアをサイトに投稿する。アイデアに対して他の消費者がコメントし、Quirkyがデザインを提案、それらに対し消費者が投票し、十分な数の事前予約が集まったら商用化される。その仕組みによって同社は週に2つの製品を市場に投入しているという。
Quirkyの仕組みがエレファントデザインと大きく違うのは2点。まず、消費者は製品アイデアを投稿するのに、10ドル支払う必要がある。投稿者は同社のサイトで自分の製品アイデアに対する他者の反応を知ることができる。10ドルはそうしたマーケティング調査費用として支払われる。
2点目の相違点は、製品開発に貢献した人たちに対するレベニュー・シェア(利益分配)の仕組みを組み入れているところだ。つまり製品アイデア、最終デザイン、パッケージング、そしてマーケティングといった開発に貢献した全員に対して貢献度を独自の方法で算出し、その貢献度に応じて参加者にロイヤルティを支払うのだ。直販の場合は売り上げの30%、間接販売の場合は10%が開発参加者に分配される。例えば、以下で紹介する同社の成功製品のPivot Powerの場合、アイデア投稿者は12年6月20日段階で10万9310ドル(約800万円)の収入を得ている。
Pivot Powerは、次のような特徴を持つ製品だ。情報家電のプラグは独自の形をしたものであることが多い。プラグをコンセントに差そうと思っても他のプラグがコンセントの差し込み口をふさいでしまっていて使えず、困ったという経験を持つ読者がいるのではないか。そんな場合でも受け口側の形状を柔軟に変え、コンセントのすべての差し込み口を使いきれるようにする。それを可能にした延長コードがPivot Powerだ。Quirkyでは同製品のような日常生活の問題をちょっとした工夫で解決した製品が多く販売されている。
エレファントデザインやQuirkyは製品化を実現するため、生産を請け負うメーカーに対し採算が合うロット数以上の購入者がいることを事前予約数という形で提示する。従来の生産技術では手ごろな価格で製品化を実現するのに一定数以上の購入者がどうしても必要だったのだ。
しかし、この状況が今、一変しようとしている。消費者がパソコン上で簡単に製造可能なデザインを作成でき、実際に1ロット単位で手ごろな費用で製造できる技術が一般の人々に利用できるようになってきているのだ。立体印刷(3D printing)という技術だ。