“100年に一度”の変革に対応できるのか

収益力のさらなる低下に伴い、EVなど先端分野での日産の設備投資能力は低下するだろう。近年、世界の自動車産業界では、“CASE(自動車のネットとの接続可能性、自動運転、シェアリングや電動化)”に向けた研究開発や設備投資が増えた。自動車の生産は、すり合わせ技術を核としたものから、デジタル家電のようなユニット組み立て型に急速にシフトしている。

米テスラや中国のBYDは急速に成長を遂げ、新規参入も増えた。さらには脱炭素に対応した調達、生産体制の強化、車載用バッテリーメーカーとの連携強化など、“100年に一度”と呼ばれるほどの変革は激化している。収益低迷が長引き、設備投資が遅れる結果として、日産がそうした環境の変化に対応することは一段と難しくなると判断し、S&Pは日産の信用格付けを非投資適格級に引き下げた。

信用力の見通しは“安定的”と判断した背景

S&Pは日産の信用力の見通しは“安定的”と判断した。想定された以上に業績回復は遅れそうだが、同社の返済能力が急速に低下するリスクは、現時点では抑制されているとの見方だ。

その背景としてS&Pは、日産の事業構造改革への取り組みの効果が徐々に表れてきたことを挙げている。新興国事業の縮小、ブランドの削減などによる固定費の圧縮だ。それによって従来に比べ、日産は厳しい中ではあるが収益を捻出しやすくはなった。

また、S&Pは日産が競争力ある新型車を投入し始めたことも評価した。この点は、中長期的な日産の事業展開にかなり重要な影響を持つ。2010年、日産はEVの“リーフ”を投入した。2010年にはテスラがわが国への進出を発表した年でもあった。ある意味、世界のEVシフトが幕を開ける段階で、日産は量産型のEVを投入していた。

ただ、リーフの次のモデル投入に時間がかかった。要因の一つとして、ゴーン時代の日産は、電動車の開発加速よりも、新興国事業の強化を優先した。2014年、日産はボリュームゾーンとして需要増加期待が高まる新興国の市場開拓のために“ダットサン”ブランドを導入した。低価格帯の量販車の生産体制を強化した。