格付け会社はEV事業の「選択と集中」に着目
3月7日、有力信用格付け業者のS&Pグローバル・レーティングは、日産自動車の過去3年間の収益性や販売台数の低迷を理由に、同社の信用格付けを“トリプルBマイナス(BBB-)”の投資適格級から、“ダブルBプラス(BB+)”の非投資適格級(ジャンク級)へ1段階引き下げた。
S&Pは、長引く供給網(サプライチェーン)混乱、コストの増加、世界的な景気減速や金利上昇で、今後1~2年間は世界の自動車関連企業を取り巻く環境は厳しい状況が続くと予想している。S&Pは、当面、日産の自動車事業の業績の回復は難しくなったと判断したとみられる。今回の格付け引き下げは、日産の資金調達コストにも悪影響が及ぶことが懸念される。
ただ、S&Pは日産の事業構造改革の成果に着目し、信用格付け見通しは安定的とした。S&Pは、日産のEV関連事業への選択と集中がさらに加速するかに着目しているようだ。今後、日産は内外企業との連携を強化し、電動化など最先端技術の研究開発、実用化を急ぐ必要があるだろう。そうした取り組みが実際の効果を上げるか否かによって、同社の今後の業績にはかなり大きな影響が出るだろう。
過去20年間で最も厳しい状況
S&Pの発表によると、過去20年間で日産は最も厳しい状況に直面している。2022年3月期まで3年連続で赤字を計上し、その状態から完全に脱却することは難しいとS&Pは判断している。
2022年度第3四半期、日産の小売販売台数は前年同期から6.9%減少した。世界最大の自動車販売市場である中国では、ゼロコロナ政策の長期化、不動産市況の悪化などを背景に個人の消費が落ち込み、日産の販売台数は減少した。米国でも、日産の販売台数は減少した。
供給制約の解消に時間がかかっていることや、インフレ鎮静化のための金融引き締めによる個人消費の緩やかな鈍化などの影響は大きい。日産のカルロス・ゴーン社長時代に、生産・販売など事業運営体制が強化された新興国地域では、中国向けの輸出の伸び悩みが鮮明となり、個人消費の盛り上がり方は弱まっている。
S&Pは、日産が世界経済全体の環境変化に対応できるかにも懸念を強めているとみられる。車載用の半導体など世界の自動車サプライチェーンの混乱は、2023年も続くと予想している。また、年後半にかけて欧米市場で自動車の販売台数は徐々に減少し、販売価格に下押し圧力もかかると予想している。その見通しに基づき、S&Pは、日産の収益に一段と強い下押し圧力がかかり、収益率は競合他社を下回る状況が想定された以上に長引くと判断した。