社会から求められているからこそ生涯現役でいられる
当時、藤子・F・不二雄として仕事をされていた藤本弘先生はすでに亡くなられていましたが、安孫子素雄先生は藤子不二雄Ⓐとして漫画を描き続けていましたし、ちばてつや先生や古谷三敏先生も70歳を過ぎて精力的に漫画を描き続けていました。日本の漫画界を牽引してこられた先輩方が現役で頑張っているのですから、「私は今年いっぱいで引退しますなんて、とてもじゃないけど言えないよな」という話をしたことを覚えています。
聞くところによると、藤本先生は、家人が「ご飯ですよ」と仕事部屋に声をかけるといつものように返事があったのに、いつになっても出て来ないので娘さんが見に行くと、机で漫画を描きながらそのまま突っ伏して亡くなっていたといいます。僕はその話を聞いて、これこそ理想の死に方だと思うようになりました。今も、好きな漫画を描くことに没頭して、ペンを握ったまま往生することができたらいいなと思っています。
2021年12月に古谷先生が85歳で亡くなり、2022年4月には安孫子先生が88歳で亡くなりましたが、みなさん生涯現役で、最後まで頑張っておられました。生涯現役でいられるということは、求められているからこそできることですが、誰に求められているのかということを考えると、広くとらえれば「社会」ということになるでしょう。
この本では、幸せな人生を過ごすために、好きなことを続けて社会から必要とされる存在になるにはどうすればいいのか、ということを思いつくままに書き連ねてみました。
60歳から幸せになれる“4つの条件”
歳を過ぎて、好きなことを続けて「時間」「人」「仕事」「お金」「心・頭・体の健康」に恵まれる生き方をするには何が必要か、「やりがい」に恵まれる生き方をするためには何が大切か、といったことにフォーカスしていきます。誰かに求められているということは、その人の役に立つ存在だということです。この本を読みながら、世の中の役に立つということ、社会に求められることがなぜ幸せにつながるのかということを考えていただきたいと思います。
僕は『弘兼流 やめる! 生き方』(青春出版社刊)の中で、60歳からの幸せな人生の条件として「好きなこと」「得意なこと」「世の中の役に立つこと」「人に迷惑をかけないこと」の4つが揃うものを見つけることが近道であると説きました。
この公式に従えば、好きで得意なことをして世の中の役に立てたら幸せな人生ということになりますが、ここに「できれば生涯現役でいられること」を加えてもいいのではないかと思うようになりました。あと、どのくらい仕事を続けていけるのかはわかりません。僕の時計が止まるのは明日かもしれないし、10年後かもしれません。その時が来るまで、僕も先輩方と同じように生涯現役でいたいのです。