同じ年齢の作者も体力的な限界を感じていない
75歳になった島耕作は、社会的には後期高齢者になったわけですが、体も頭もクリアですからまだ隠居するには早すぎます。それは、同じ年齢である僕自身がそう感じているわけです。
60代の頃には、日本人男性の平均寿命が80歳くらいで、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」である健康寿命は72歳くらいだから、仕事もゴルフも楽しめるのはそのくらいまでだろうと思っていました。しかし、その72歳を過ぎて75歳になった今、漫画も描き続けていますし、ゴルフだって続けています。好きなことを存分に楽しむ日々を送っているのです。
年齢的なことは個人差が大きいですから、誰にでも共通することではありません。現に同郷の同級生を見てみると、7~8割くらいの人は隠居生活に入っているように思います。でも、島耕作は自由に動けますし頭もまだまだ現役で、長年在籍してきた会社を退任したものの、隠居してのんびり過ごそうというようなことは考えません。
相談役時代に財界で培ってきた知見が豊富ですから、これを無駄にするのは日本の損失だと考える財界人から請われて、ある企業の社外取締役を引き受けました。会社の持続的な発展と技術の向上、ステークホルダー(利害関係者)の利益になることをするのが彼のやりたいことなのです。
人間は何歳になっても成長できる
僕は常々、働けるうちは働いたほうがいいと発言してきました。それは仕事をすることが刺激となり、人間は何歳になっても成長できるからです。仕事で発生するストレスの先にある達成感や充実感を得ることが幸福感へとつながり、人と接することや考えることを続ければ老化防止にもつながるでしょう。
さらに、仕事をやめて隠居をすれば国に負担をかけることになりますね。その負担は、本当に支援を必要としている人のために使ったほうがいいはずです。だから、できれば働ける間は働いていたい。そこで、島耕作にはもう少し働いてもらおうと思ったわけです。
僕自身は漫画を描くという仕事が好きだということもあるのですが、自分から「辞めよう」と考えたことはありません。これは幸せなことですね。今、主な連載は2本で、どちらも出版社からやめてもらっては困ると言われているのですから、ありがたいことです。
60歳を過ぎた頃ですから15年近く前のことですけれども、かわぐちかいじさんとどこかの飲み屋で飲んでいて、「俺たち60歳を超えたけど、もう漫画家を辞めてもいいと思ったことはない?」と聞いたことがありました。彼は、「それはあるけれども、10歳も年上の先輩たちがみんな頑張って仕事をしているのに、俺たちが辞めるなんて言ったら怒られるよね」と言ったのです。