大資産家のカンプラード氏ですら、エコノミークラスで来日し、吉野家の牛丼に舌鼓を打った逸話がある。
イケアバリューは仕事をするうえで拠り所となる価値観だが、受け止め方には個人差があり、研修後はOJTで刻み込む。前出の3人のマネジャーに「あなたにとってのイケアバリューとは?」を聞いたところ、辻さんは「チャレンジ」と答えた。そのわけは「きちんと理由があって周囲に認められれば、いろんなことを変えていける会社だから」だという。高井宏樹さんは「迷ったときの指針」と答え、佐藤舞さんは「会話をするときの共通言語」と説明した。
3人の回答に共通するのは「自分で考え続ける当事者意識」だろう。新たなメンバーにもそれが求められた。
イケアでは採用も独特だ。学歴や職歴よりも、「家での暮らしが好きか、家具が好きか」「イケアカラーを共有できるか」を基準に選考が進められる。パートタイマーに対しても同様に、複数回の面接を通じて念入りに確認する。従業員にはユニークな経歴を持つ人も多い。
プットリ・ラティフ・プリマディタさん(26歳)は、インドネシア・ジャカルタの雑誌社でグラフィックデザイナーを務めた後、日本語の勉強のため来日。福岡新宮店ではコミュニケーション&インテリアデザイン部門でポスターや広告を担当している。
前職は福岡県国際交流センターで韓国との窓口を担当していた土岐薫さん(37歳)は、美術や芸術が好き。学生時代の留学先でスウェーデン人の友人に教えられて以来のイケアファンだった。地元にイケアが来ることを知った土岐さんは転職を決意した。現在は、社内向け広報から、海外から来るヘルプスタッフの世話まで幅広い業務をこなしている。残業はしない、休みはきちんと取るという社風の中、「泣きたくなるほど仕事が大変なときもあるが楽しい」と言う。