北関東中から「フホー」が茨城に集まる

「フホーを粗末に扱ったら、逃げられて通報されますからね。それもあってフホーのほうが立場が強かったりします」(技能実習生が働く企業や農家を取りまとめる組合で働く浜田和樹さん、仮名)

実際、フックさんは月によっても違うが稼ぎはだいたい25万円前後。「30万円、40万円くらい稼いでるフホーもいるって聞いた」。

実習生よりぜんぜん割がいいのだ。そして農家としては、フホーはフレキシブルで便利な働き手というわけだ。なんとも奇妙な共生関係が成り立ってしまっているのだが、だから鉾田やその近辺の鹿行ろっこう地域では、そこらへんの農家にも飛び込みでフホーがやってきて「なんか仕事ないですか」と笑顔で尋ねてきたりする。

僕なんか鹿行地域の某所で、一面の畑の緑があまりに見事で思わずカメラを構え、そばで農作業をしていたおっちゃんに「写真撮っていいっすか?」と尋ねたら、「いいけどよ、奥のほうで働いてんのフホーだから。カメラ構えたら逃げっかもな。ワハハハ」という返事でアゼンとしたことがある。

それほどまでにフホーはカジュアルな存在となっているのだ。

浜田さんの推測では、「茨城の技能実習生は1万5000人ですが、フホーはそれよりたくさんいるかもしれない」という。

フホーにはベトナム人が多いが、ほかの国籍もいる。逃亡実習生もいれば、元留学生も、難民申請経由から移行した特定活動の資格も切れた人もいる。そんな連中をひっくるめて「非合法な労働力」という意味で「フホー」と呼んでいる印象だ。

彼らはおもに北関東一円から流れてくる。ほかに働き場をなくした立場でも、鹿行地域の農村なら仕事があると考えている外国人は多い。

そんなフホーが技能実習生とともに、茨城特産の野菜や果物をつくっている。東京都内のスーパーマーケットでは茨城産の品が実に多いが、そのうちけっこうな部分にフホーが携わっているのだろうか。

写真=iStock.com/recep-bg
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「人材の質を問わない」の結果

受け入れ現場である工場や農家も、果たして本当に実習生が必要なのだろうかと、浜田さんは疑問に感じている。

「そんなに人が足りないなら、出荷数を減らしたらどうか、と話すこともあるんですが」

労働力の減少に伴って、経営規模をダウンサイジングさせていくことに抵抗があるようだ。それは個人農家や中小の工場だけでなく、日本全体に言えることなのかもしれない。時代が変わり働き手が減っても、以前のような業態を維持したい。しかし企業の体力は減っている。だから、より安い労働力が欲しい……。

かくして、さまざまな業界の皆さまの需要を満たす形で、ベトナム人の技能実習生があふれかえるようになった。それが顕著に表れているのが、昔から外国人労働者が多かった国道354沿線というわけだ。

で、「ひとりアタマなんぼ儲かるから」と人数だけにこだわって、「人材の質を問わない」スカウティングの結果、当然といえば当然なのだが、おかしな人たちも混じるようになる。犯罪やケンカも増える。