ベテランの実習生のほうが立場が上

ベトナム人実習生なくしては、もはや成り立たない農家も茨城では増えてきているのだと鹿行地域の農家・倉田順二さん(仮名)は言う。

「実習生に依存しすぎて、作業をなにもかも任せた結果、農業のノウハウがゼロになった農家もあるんだよな」

たとえばこんなケースだ。

高齢の農家が、ベトナム人実習生を使ってどうにか家業を維持していたところに、後継ぎとして息子が帰ってくる。彼は農業をまったく知らない。親は年のせいもあって、うまくノウハウを伝えられない。そこで、ずっと仕事をしてきた実習生が活躍する。息子は実習生に頼り切り、実習生にむしろ指示されるようになる。

「自分がいまなにをやっているのか、実習生たちの作業の意味もよくわからないまま働いている“2代目社長”も、まわりにはいるよ」

彼ら実習生は、3年や5年といった期間で帰国するが、新しくやってきた実習生に先輩たちが指導して、農作業の方法を次の世代に伝えていく。そんなサイクルができあがっていく。

結果として、日本人になんの知識もなくなってしまい、代々のベトナム人が農地を守っている農家もあるくらいなのだ。

「それならまだいいほうで、ろくに農業を知らない2代目に不満を募らせて、ベテランの実習生が働かなくなってる農家もある。代替わりのときも、やる気ないのに教わるからどんどん適当になる。だから実習生からも2代目からも技術が失われて、潰れた農家も見た」

倉田さんの話に、思わずため息が出た。これが農業王国・茨城の現実なのだろうか。

「入管、もうこわくない」

こうした状況が続いていたところに、コロナ・パンデミックとなった。入国制限で技能実習生がまったく入ってこられなくなったのだ。困ったのは農家だ。いまの実習生が期限を迎えたら、次の働き手がいない。だから、国内にいる外国人を活用しようという動きが広まっていく。

技能実習を終えた後も「特定活動」などの在留資格で働けるようにしたり、「特定技能」という新しい枠組みの労働用の在留資格に切り替えていったり。

それに難民申請をまるで「つなぎ」のように使って「特定活動」に移行させ、就労資格を得る、裏ワザのような方法もある。フホーでも構わず雇う農家も多い。茨城のみならず、沿線の北関東では、あらゆる手を使ってコロナ禍でも安い外国人労働力を確保しようと躍起になったのだ。

その結果……「入管、もうこわくないって言うフホーばかり」と、フックさんは話す。

不法就労の容疑で捕まっても、すぐに釈放されるのだという。入管では世界的な入国制限で帰国困難となった外国人があふれ、収容人数をオーバーしているとか、密を避けるためだとか、実習生が入国できない状況では地域の労働力として黙認せざるを得ないとか諸説あるが、いずれにせよ「取り締まりがゆるくなった」とフックさんは感じている。