日本の農業は誰が支えているのか。ライターの室橋裕和さんは「全国でも有数の農業県である茨城を取材したところ、不法滞在者なしでは農業が成り立たない状況であることがわかった」という――。(第1回)

※本稿は、室橋裕和『北関東の異界 エスニック国道354号線』(新潮社)のコラム「『フホー』に支えられる茨城の農業」の一部を再編集したものです。

農業で働く高齢女性
写真=iStock.com/justtscott
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だれが茨城の農業を支えているのか

茨城県の総農家数は7万1000戸超で長野県に次いで全国2位。耕地面積は16万3000ヘクタールで北海道、新潟に次ぐ3位。農業産出額は4417億円と北海道、鹿児島に次ぐ3位。日本トップクラスの農業県なんである(数字はいずれも2020年。農林水産省による)。

そこを、かなりの部分で外国人が支えていることはあまり知られてはいない。茨城の農村では、自転車に乗ったアジア系の技能実習生たちが本当に多い。クルマ社会なのに、どこへ行くにも黙々と自転車をこいで走っていく後ろ姿を、僕はこの旅で数えきれないほど見てきた。

なぜ不法就労者を働かせるのか

茨城県内でもとりわけ農業がさかんな鉾田ほこたなどの地域では、逃亡実習生でもオーバーステイでも働き口がある。収穫や梱包こんぽう、荷運びなどなど、農家の下支え的な仕事だ。技能実習生となんら変わらない作業なのだ。

実習先の農家から逃げてきたベトナム人男性・フックさん(仮名)が笑う。

「私が働いてる農家、実習生もいる。私みたいなフホー(不法就労者)もいる」

ベトナム人というのは同じだが、かたや合法、かたやフホーの労働力が同居しちゃってるのである。

彼らフホーは、農家にとっては実はありがたい存在なのである。繁忙期だけ働かせることができるからだ。技能実習生の場合、基本的には3年間の契約で、当たり前だが雇用し続ける必要がある。その間コストがかかる。

しかしフホーは、この作物の収穫期だけとか、夏の間だけとか、そういう使い方ができる。法律なんか関係ないので時間も無視してガンガン働かせても、そのぶんキッチリ給料を払えばいい。もちろんアシのつかないニコニコ現金払いだ。

フホーのほうも「いつ捕まって国に返されるかわからない」ので、いまのうちに稼ごうと、危機感を持ってマジメに働くのである。だから農家のほうは、実習生よりもむしろフホーを大事にすることがある。