トヨタのEV投資額はフォルクスワーゲンの約半分
第4の「2030年までに電動化に対して最大8兆円を投資」を見てみましょう。8兆円という投資規模を漠然と聞くと圧倒的なスケール感でEV戦略が進んでいくと感じるわけですが、この8兆円という投資規模は、あくまでも2030年までのトヨタの「電動車」全体に対する投資総額です。
気をつけていただきたいのは、この「電動車」という言葉です。トヨタをはじめとする日本メーカー勢は、よく電動車という用語を用いてEV戦略を説明するわけですが、電動車=EVではありません。電動車の定義にはEVだけではなく、プラグインハイブリッド車や水素燃料電池車、そしてトヨタや日本メーカー勢お得意のハイブリッド車も含まれています。つまり8兆円という投資規模というのは、EVに対してのみの投資額ではなく、プラグインハイブリッド車、水素燃料電池車、そしてハイブリッド車に対する投資額全てを合計した総額です。
8兆円の投資額を分解してEVのみに対する投資額を見てみると、その金額はズバリ4兆円。この金額を生産台数ベースで同格のフォルクスワーゲングループと比較してみると、フォルクスワーゲングループは2021年から2026年までの5年間で、520億ユーロ、日本円に換算しておよそ7.3兆円をEVに対して投資する予定です。
トヨタは2022年から2030年までの9年間で4兆円。フォルクスワーゲングループは2026年までの5年間で7.3兆円。このように比較してみると、フォルクスワーゲングループの投資額が飛び抜けており、トヨタのEVへの投資額が取り立てて多いのかと言われれば、そうでもない、ということがわかります。
トヨタのバッテリー調達力は多いとはいえない
最後に第5として、「2030年までに年産280GWhものバッテリーを確保」という点ですが、年産280GWhという数字からトヨタの大規模なバッテリー生産計画を連想されるかもしれません。
しかし例えば日産は、同じく2030年までにグローバルで130GWhというバッテリーを確保する方針を表明しています。先ほどご説明した通り、日産はトヨタの半分程度の車両販売台数ですから、単純計算してみると、トヨタの280GWhというバッテリー調達能力は、日産と同等の調達能力であるということが簡単にわかります。
韓国ヒョンデも、2030年までにグローバルでEV販売台数187万台という目標を達成するために、ズバリ170GWhというバッテリーを確保する方針を表明済みです。ヒョンデの乗用車全体の販売台数がコロナ禍以前の2019年時点で447万台程度、同年のトヨタの販売台数1074万台に対して約半分であったことを勘案すれば、少なくともトヨタよりも乗用車の販売台数に占めるバッテリーの調達量の割合が高いということになります。
フォルクスワーゲンはヨーロッパに6つのバッテリー工場を建設
特筆すべきはフォルクスワーゲングループで、ヨーロッパ域内に合計6つものバッテリー生産工場を建設する方針を表明し、すでに3つの工場の建設をスタートしています。2030年までにはこの6つの工場で年産240GWhという生産キャパシティを確保することになります。加えて現在、北米市場においてもバッテリー生産工場の建設を計画中です。
さらに中国市場においては、CATLや株式を多く保有するGotion High-Tech(ゴーション・ハイテック)などのバッテリーメーカーと更なるバッテリー調達の契約を結ぶことも間違いありません。
圧倒的な規模でバッテリー生産を計画しているフォルクスワーゲングループと比較すると、トヨタが主張しているバッテリーの生産キャパシティは、世界と比較しても特段多いとは言えないのです。
大きなニュースになったトヨタのEV戦略ですが、こうしてひとつひとつじっくり見てみると、世界のEVシフトの中では、取り立てて際立った戦略ではないということがわかります。