ヘルペスウイルスとアルツハイマー病の密接な関係性

つまり、アルツハイマー病に微生物が関与しているという決定的な証拠があるのだ。残された謎は、その微生物の正体だ。

台湾で行われたある研究が、最も疑わしい容疑者を突き止めた。この研究者たちは、ヘルペスウイルスの感染者が抗ヘルペス薬を服用しなければ、非感染者の2.5倍もアルツハイマー病になりやすいことを発見した。抗ヘルペス薬はヘルペスウイルスを抑制し、興味深いことに、アルツハイマー病になるリスクも正常レベルに戻す。また、アルツハイマー病で亡くなった患者の脳組織にはヘルペスウイルスの痕跡が大量に見られるが、対照群の脳には見られない。これを複数の研究グループが確認したことはヘルペスウイルス説を補強する。

加えて、ある研究では、アルツハイマー患者の脳のアミロイドβ塊の中にこのウイルスが発見された。抗ヘルペス薬の効果は実験室でも再現できる。

培養した脳細胞にヘルペスウイルスを感染させ、抗ヘルペス薬を加えないと、アミロイドβの凝集塊が現れるのだ。この相関性はアルツハイマー病のリスク遺伝子に関する謎の答えにもなる。アポリポタンパク質E(APOE)遺伝子という遺伝子の特定の変異は、アルツハイマー病になるリスクを高める。同じ変異がヘルペスウイルス感染者の口唇ヘルペスになるリスクを高めることがわかっている。この変異は、ヘルペス感染症と闘う能力を下げることで結果的にアルツハイマー病になるリスクを高めているのかもしれない。

病原体が病気を引き起こすわけではない

アルツハイマー病のヘルペスウイルス説を批判する人々は、ヘルペスウイルスに感染してもアルツハイマー病にならない人がいることを指摘する。だが、これまでに学んだ通り、それはごく当たり前のことだ。

ピロリ菌に感染しても、消化性潰瘍にならない人がいる。エプスタイン・バーウイルスに感染しても、多発性硬化症を発症しない人がいる。どちらのケースも、病気は感染の副産物として生じるのであって、病原体が病気を引き起こしているのではない。病原体が、ある人には病気を引き起こし、他の人には起こさないのはそのためだろう。遺伝子、ウイルスの株の種類、感染の程度、偶然や運も影響する。