これはユニバーサルサービスと言われる。社会全体で均一に維持され、誰もが等しく受益できる公共的なサービスのことだ。

この考え自体も時代とともに揺らいではいるが、鉄道などの交通網についてはこうした考えが貧弱だ。

JR各社はもともと日本国有鉄道(国鉄)であったがゆえに運賃は全国一律、通し運賃となっている(幹線・地方交通線の運賃差はあり、運賃以外の特急料金、グリーン料金等については異なる)が、私鉄を含めた運賃体系は前述のように各社が独立採算で鉄道事業を行っているため、運賃水準はバラバラで、乗り換えごとに運賃が加算されてしまう。

海外では運賃の共通化から、無料化へ

海外に目を転じれば、運賃の共通化のみならず、無料化まで実施されている。現在、世界の100以上の都市で公共交通が無料で利用できる。そのうちおよそ30がフランスの都市であるという。なぜそのようなことが可能なのだろうか。

フランスでは、都市内の公共交通は、国の方針に基づいて各都市が方針を定め、運営している。基本となる国の方針は各種法律によって定められているが、国内交通基本法(LOTI)、交通法典(Code des transports)が重要法だ。

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国内交通基本法は1982年に制定され、現在フランスの公共交通運営理念の基軸とも言うべき、交通権の保障を明文化している。交通権とは、「利用しやすい施設・設備で、一定以上のクオリティの交通を、利用しやすい料金で誰もが享受して移動できる権利」を指す。その後、国内交通基本法の内容の多くは、2010年制定の交通法典に移行されている(交通経済研究所・石島佳代氏の論文による)。

フランスにおける運営費用に関しては都市によって多少の割合の違いはあるものの、運賃収入のほかに国・地方行政による費用負担や、都市圏内の企業から徴収される交通負担金(Versement transport/VT)が充てられるのが特徴だ。フランスの都市内交通公共料金運営支出の割合は以下の通りだ(2013年全国平均)。

フランスで重視される「交通権」

運賃収入による収支カバー率は全国平均(2013年)で全体の17.3%にすぎないが、フランスにおいてこの収支状況は不採算とは考えられていないという。そもそも運賃収入は全体の収入の10%~40%ほどと考えた上で運賃水準が設定され、それを念頭に置いて交通負担金の税率や国・行政の費用負担額が決められている。

「公共交通料金の財政補助状況が教育などと並列して説明されることが多かったりする現状を考えると、フランスの公共交通の運賃は、日本における医療費の患者負担分や義務教育期間中の教育費のような位置づけとなっていることが窺われる」(石島氏)という。

日本では交通権という発想がそもそも乏しいし、鉄道運営費に関しては一般的な公的財政支援もない。また、フランスの交通負担金というような制度もない。