この制度は興味深い。交通負担金制度は、都市自治体が域内の事業所(企業および公的機関・学校や病院など)に対して、従業員の給与を課税ベースとして都市公共交通の財源を課税する地方税制度である。交通負担金は事実上の法定目的税であり、定められた条件の範囲内で、自治体が自らの裁量で徴税するか否か、および税率の決定を行うことができる(南聡一郎氏の論文による)。

SDGs、持続可能性が叫ばれ、高齢者の自動車運転事故が社会問題にもなっている。そうした中で環境負荷が少なく、比較的安全な鉄道網をどう維持し、バスも含めて公共交通手段の利便性を少子高齢化が進む今日、どのように図るかは大きな政治課題だろう。

大学生の貧困も近年話題になっているが、学生と話していると就活時の交通運賃の高さを指摘する声も多い。日頃は通学定期券で通学する学生も就活であちこちに移動するときは定期券が使えず、高額な運賃負担を強いられるからだ。

恵比寿付近を通過する山手線
写真=iStock.com/winhorse
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東京の運賃は時代遅れになっている

日本の鉄道を中心とした交通政策は、民間が行う収益事業であることを基本としている。

国交省が、企業の開業や運営方針を尊重した上で、総括原価方式により独立採算の中で適正利潤を確保できように運賃認可を行う。フランスのように公共性を重視して事業体制や運営方針を決める仕組みではない。

路線拡張などにあたっては新たな鉄道会社がタケノコのように設立され、役人の天下り先になっている側面もある。東京臨海高速鉄道の代表取締役社長は元東京都収用委員会事務局長、代表取締役専務は元東京都交通局建設工務部長、ゆりかもめの代表取締役社長は元東京都港湾局技監だ。これも東京の交通運賃が高い一因と言えるだろう。

本稿では、東京の都市交通と運賃について取り上げたが、地方の交通はその維持が重要な課題になっている。特に国鉄の分割民営化で誕生したJR北海道は経営難が指摘されている。だが、JR各社がそれぞれ独立して経営を行う今日、高収益を上げるJR東海などがJR北海道を直接財政支援することは困難だ。

交通運賃政策は、都市交通利用者の負担軽減に加え、地方の公共交通の維持についても、政府が中心になってデザインし直す必要があるのではないだろうか。

例えば、全国一律に1回乗車当たり10円程度のユニバーサル料金を運賃に加えて徴収し、全国の鉄道網維持の財源にするとか、上下分離方式(線路などの施設は公有とし、それを利用して鉄道会社が運行する)などもアイデアとしてはあるが、実質的議論や動きはない。不採算路線をどうするかという議論は必要であるが、このままでは日本の近代化のなかで国民の財産として築かれてきた全国的鉄道網がなし崩し的に崩壊する。

岸田総理は「異次元の少子化対策」を表明したが、公共交通運賃政策についても既存の枠組みにとらわれない異次元の政策表明を望みたい。

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