自己肯定感とは、根拠なしに自分を信じること
私が懸念するのは、こうしたトレンドやブームに乗っかって新出の言葉が出回ることで、得をする人がいる一方で、苦しむ人が出てきてしまうことです。
自己肯定感の元となった心理学用語「セルフ・エスティーム」は、自尊心や自己肯定感などと訳されますが、自尊心が、自分に対する「自信」であったり、「他者の干渉を排除したい」という心であるのに対して、自己肯定感は、「ありのままの自分を認める感情」を表します。
自尊心に含まれる「自信」は、能力や成果などの根拠に基づいて自分を信じることであり、また、自尊心には、他者の干渉を排除したい、という心が含まれます。
自己肯定感は、能力や成果にかかわらず、自らの存在意義や価値を肯定し、「自分が自分のままであって大丈夫」と根拠なしに自分を信じることです。
ちなみに、褒められても認められても、「自分はダメな人間だ」と頑なに自分を否定するのは、自己肯定感が低い人ではなく、自己否定感が強い人。
自己否定感が強いと、能力が高くても、成果を出しても、「自分には無理」「自分には生きる価値がない」となってしまいます。
「親が悪い」が新たな苦しみを生む
では、自己肯定感の高い低いは、どこからやって来るのでしょうか。
臨床心理学者の高垣忠一郎氏によれば、「幼少期の生活や教育環境によって大きく左右されると考えられ、自分本来の感情を否定されて育つと自己肯定感は低くなる」といいます。
確かに、幼少期に親に認めてもらえなかった経験は、子供にとっては大きなものでしょう。
私の元に届く相談の中でも、「親が悪いから私がこんなに自己肯定感が低くなってしまった」「親が私を否定し続けたから、私はこんなに不幸になってしまった」と信じて、親を恨み続ける人が少なくありません。
しかし、ここに新たな苦しみが生まれるきっかけがあります。
自己肯定感の高い低いが、「幼少期の親」の子供への対応によって決まるのだとして、それを知ったことで、幼少期をやり直すことはできません。
けれども、だからと言って、親を恨み続けて人生が好転するわけでもないのです。
むしろ、その人の人生がうまくいかない理由は、自己肯定感が低い理由が親にあるとして、親を恨み続けているところにあります。