この2016年10月のドゥテルテによる中国訪問直前の同年7月、国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所は、フィリピンが中国を相手に訴えた南シナ海の領有権問題をめぐる判決を出し、中国は事実上の敗北を喫していた。
南シナ海判決とも呼ばれる裁定で仲裁裁判所は「九段線」と呼ばれる線で囲んだほぼ南シナ海全域に対する中国の領有主張を退けた。
ただ、判決には、南シナ海でフィリピンや台湾などが実効支配する高潮高地、つまり満潮の時にも海面下に沈まない島も「独立した経済生活を送れない島」として岩扱いし、その島を起点とした領有権は領海12カイリのみとし、島を起点にした排他的経済水域(EEZ)の設定を認めないとの内容も含まれていた。
「中国の敗北」と報じられたが…
フィリピンや台湾にとっては不満が残る内容でもあった。また、ペトラブランカ島に対する裁定とは違い、中国は仲裁裁判所への提訴に同意していなかった。しかし、日本など国際メディアは「中国の敗北」と報じ、フィリピンのメディアも「フィリピンの勝利」として大きく報じた。
中国の九段線内全域の領有主張は、そもそも東南アジアの現実を踏まえていない論外の主張で、中国としては「最大限を一応主張しておく」という心づもりの主張だったとみられるが、判決が明確に否定したことによって中国の外交的イメージは大きな打撃を受けた。しかし、そのマイナス部分が、ドゥテルテの親中転換で帳消し以上の成果を上げることになったのだ。
さらに、ドゥテルテは「南シナ海判決は南シナ海の領有権問題の解決には寄与しない」とも言い続けていた。確かに経済的価値が薄いペトラブランカ島とは違って、南シナ海の南沙諸島海域には石油や天然ガスの埋蔵が確認されている。
しかも、領有権を主張しているのは中国とフィリピンだけでなく、台湾、ベトナム、マレーシア、ブルネイの6カ国・地域だ。南シナ海の領有権問題は判決一つで解決する問題ではなく、少なくとも中国とASEANが合意できる行動規範(COC)の策定しか平和解決の道はないように思われる。