スカボロー礁はフィリピン、中国など6カ国・地域が領有権を争う南沙諸島とはかなり離れた別の海域にある岩礁だ。

ルソン島北部サンバレス州西方230キロほどの地点にある岩礁で、国際法ではフィリピンの排他的経済水域(EEZ)の中にある。そこは、サンバレス州のフィリピン人漁師たちには魚が豊富な漁場として知られており、多くの漁師がスカボロー礁で漁をしてきた。

スカボロー礁では干潮の時、いくつかの岩礁に加えて小さな砂浜も顔を出す。しかし、満潮の時にはすべて海面下に沈む。海洋法では低潮高地と呼ばれる岩礁である。

フィリピン政府はこの岩礁に特に注目してこなかった。サンバレス州の漁民の間ぐらいにしか知られていなかった場所だったこともあり、岩礁に建造物を構築したり、岩礁に国旗や領有地であることを示す標識などを立てることもしなかった。沿岸警備隊や海軍が頻繁に巡回して監視することもほとんどなかった。

こういう場所は、放置しておくと必ず他国との領有権問題が持ち上がるのが常だ。フィリピンのEEZ内にあるのだから、漁民の避難所を造る、標識を立てる、海軍船が定期的に立ち寄るといった示威行動をフィリピン政府はもっと前からやっておくべきだった。

東南アジアの政治地図
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権益を守るため海洋調査に熱心になる

現在はその反省からルソン島東方のフィリピン海にあるベンハム隆起の海洋探査活動をフィリピン政府は熱心にやっており、フィリピンのマスコミもベンハム隆起のことをしばしば取り上げる。

ベンハム隆起はかつて火山活動が活発な時期があり、地球上で最大となる直径150キロの「アポラキ・カルデラ」があることで知られる。発見者はニュージーランドで研究を続けるフィリピン人ジェニー・アン・バレットで、2021年2月、フィリピンの下院科学技術委員会は、パレットを議会表彰する決議を採択した。

それまで地球上で確認されていた最大の火山性カルデラは約7万4000年前に大噴火したインドネシアのトバ・カルデラ(長径100キロ)だったが、アポラキ・カルデラはトバをはるかに上回る。

パレットらの調査によると、アポラキ・カルデラを形成した大噴火は、ベンハム隆起のマグマの年代から、恐竜が絶滅した白亜紀後の4700万~2600万年前の新生代古第三紀に起きたとみられている。

トバ山の大噴火は地球全体の気温を5度下げたとも言われ、人類を含めて多くの生物が絶滅または絶滅の危機に瀕したことで知られている。アポラキの噴火も地球上の生物に破局的な危機をもたらした可能性がある。