フィリピンの大統領だったドゥテルテ氏はどんな人物なのか。ジャーナリストの石山永一郎さんは「演説で放送禁止用語を連発する。演説の放送で「ピー音」が入るような大統領は、世界でもドゥテルテぐらいしかいないだろう」という。石山さんの著書『ドゥテルテ 強権大統領はいかに国を変えたか』(角川新書)からお届けする――。
中国の習近平国家主席とフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領(当時)
写真=AFP/時事通信フォト
2018年11月20日、マニラのマラカニアン宮殿で手を振る中国の習近平国家主席とフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領(当時)

オバマ大統領を罵倒したフィリピン大統領

日本を含め、ドゥテルテの言動が国際的にメディアの大きな話題になったのは、2016年9月にラオスの首都ビエンチャンで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の際だった。

ASEAN10カ国の首脳や外相が集まる会議の後には、日本や米国、欧州連合(EU)など域外国の首脳や外相も加わり、対話が行われることが慣例となっている。

この時のビエンチャンでは、ドゥテルテと当時の米大統領バラク・オバマとの会談が予定されていた。

当時、既に国際的な人権団体などは、ドゥテルテが就任と同時に始めた麻薬戦争で、多くの人々が超法規的に殺害されていることを問題視していた。

ドゥテルテとの首脳会談をめぐってビエンチャン入りする前の記者会見で「フィリピンの麻薬戦争に関わる人権問題についてドゥテルテ大統領と話し合うつもりはあるか」とオバマは聞かれた。

その質問にオバマは「その話もせざるを得ないだろう」と答えた。

このオバマの答えをビエンチャン出発直前のマニラでの会見で、記者がドゥテルテに「どう思うか」とぶつけた。

この質問でドゥテルテの対米批判のスイッチが入ってしまった。ドゥテルテは感情的な口調でこう言った。

「私は主権国家フィリピンの大統領だ。とっくの昔に植民地ではなくなっている。フィリピン国民以外の意見など聞くつもりはない。(オバマは)われわれに敬意を払うべきだ。何かを要求するべきではない」

「おまえの母親は売春婦」

ここまでは英語だった。続けてフィリピン語で短くこう言った。

「あんたに私は腹を立てている。プータン・イナ・モ、外国人め」

この最後の「プータン・イナ・モ」が大きな波紋を呼んだ。プータンはプータの変化形で「売春婦」、イナは「母親」、モは「あなたの」の意味だ。つまり「おまえの母親は売春婦」とドゥテルテはオバマを罵倒したのだ。

ちょうど英語の「SON OF A BITCH」に当たるフィリピン語で、具体的に相手の母親を売春婦だと指摘して罵倒する言葉ではなく、日本語に置き換えれば「この野郎」ぐらいのニュアンスとしてフィリピンでは使われることが多い。