ただし、「プータン・イナ」までは、日常的なささいないらだち、たとえば車のエンジンがかからない、大渋滞で車がまったく進まないといった時にも、フィリピン人はいらだちを表現する言葉としてしょっちゅう言うが、「プータン・イナ・モ」とモを付けて言う時は、口調にもよるが、かなりけんか腰で、相手を本気で罵倒する場合が多い。
ドゥテルテはそのモを付けてしまったのだ。
おそらく親米派が多いフィリピン外務省や国防省の関係者から説得されたのだと思うが、ドゥテルテは結局、この発言について米国に謝罪声明を出すに至った。比米会談も「今は会談を持つ時期ではないと思われる」とオバマが述べ、中止になった。
演説の放送で「ピー音」が入る
しかし、それ以前の英語での発言部分は、反論はあるとしても、一国の大統領として問題発言とは言えないだろう。むしろ「よくぞ言った。胸のすく思いがした」というフィリピン人の感想も複数聞いた。
ちなみに、プータン・イナ、プータン・イナ・モはともにドゥテルテが演説や会見の合間にしばしば入れる口癖でもある。本人にとっては強い意を込めた罵倒の言葉ではどうやらないようだ。
演説や会見でこんな言葉をしょっちゅう言う歴代大統領はいなかったため、フィリピンのテレビ局は頭を抱えた。プータン・イナ、プータン・イナ・モともに放送禁止用語としていたからだ。
そこでフィリピンのテレビ局は、生中継を除き、ドゥテルテ演説の中身をニュースなどで紹介する際には、プータン・イナ、プータン・イナ・モの箇所をピーとなる音で消して放映するようになった。
演説の放送の際に「ピー音」が入るような大統領は、世界でもドゥテルテぐらいしかいないだろう。ほかにもいくつか放送禁止用語をドゥテルテは平気で口にするので、しょっちゅうピー音が鳴るニュースを見ていると、笑い出したくなる時もある。
プータン・イナ・モは批判を浴びたが、この時から、ドゥテルテの米国と距離を置く外交姿勢は鮮明になった。
対中外交で見せたしたたかな外交手腕
一方、ノイノイ・アキノ前政権下では険悪だった中国との関係改善に乗り出す。
ラオスでASEAN首脳会議が行われた直後の2016年10月、ドゥテルテは北京を訪問し、習近平国家主席と会談した。そして今後、友好的な関係を築いていくことで合意した。
この会談でドゥテルテが引き出したフィリピンにとっての一番の成果は、ルソン島北部西方沖にあるスカボロー礁の領有権問題を「棚上げ」することで習近平の同意を取り付けたことだった。