「自律神経をコントロールする薬」は存在する
昔の家電は接触が悪くなりがちで、振ったり叩いたりしてごまかしたものですが、人間の神経ははるかによくできていますので、そんな乱暴な方法では動かせません。
ところが奇蹟のように、20世紀の医学は自律神経をコントロールする方法を発見しました。それがいまでも心不全とか不整脈の治療として使われている「ベータ遮断薬」です。
代表的なベータ遮断薬であるプロプラノロールを発明したジェイムズ・ブラックはノーベル賞を受賞しました。
メインテート(ビソプロロール)とかアーチスト(カルベジロール)という薬を飲んでいる読者もいるかもしれません。これもベータ遮断薬です。
ベータ遮断薬と似た名前ですが違った働きをする「ベータ刺激薬」という薬もあって、これも自律神経に作用します。喘息の治療では、ベータ刺激薬のホルモテロールを含む吸入薬シムビコートとか、ツロブテロールを有効成分とするホクナリンテープが使われています。
ほかにも高血圧の薬、前立腺肥大症の薬、緑内障の薬、切迫早産の薬など、いろいろな薬が自律神経に作用することによって効果をあらわします。
サリンのような毒も、それに対する解毒剤も自律神経に関係します。
こうした薬は、名前が違うことから想像がつくかもしれませんが、それぞれ効く場所が違います。自律神経といっても部分ごとにいろいろ違った働きがあるので、狙ったところで効いてくれるようにいろいろな薬を使い分けるのです。
日光浴や風呂では整えられない
では、日光浴がどうの、風呂がどうのといった方法で、特定の臓器を狙って効果を出せると思いますか?
薬にはそれができます。神経の無数の枝のうち一部の枝だけを狙うことができます。そうしなければ、ほかの枝にもいっせいに影響が出てしまい、あっちもこっちも意図しない副作用だらけになってしまうのです。
高度な医学と薬学の知識がそれを可能にしたわけです。
ただし、現代の最先端の技術でさえ、あるていどの割合で狙いは外れ、狙っていない臓器に副作用が出ます。しかし背に腹は代えられないので、許容範囲とみなして薬を使っています。
そんなわけで、自律神経をコントロールしたければ、副作用もありますが、病院の薬でけっこういろいろなことができます。