「カモノハシ 赤ちゃん」で検索をしてみると…
「カモノハシの赤ちゃんの、正しい画像をネット検索で調べてください」
これは私が中高生向けの授業でよく出すクイズです。読者の皆さんは「そんなの、グーグルで検索すれば一発じゃないか」と思われるのではないでしょうか。実際、検索してみて「ほら、上位に出てきたこれが『カモノハシの赤ちゃんの画像』だろう」とさらに確信を強めるかもしれません。
ところが、現時点でグーグルの画像検索で上位に出てくる「カモノハシの赤ちゃん」の画像にはニセモノがあります。そのニセモノ画像は、よくみると写真説明に「可愛いと思ってもこの『カモノハシの赤ちゃん』を拡散しないで下さい」と書かれています。リンクを開くと、「これはセルビア人のアーティストが造った彫刻である」という「VAIENCE」というサイトの記事が出てくるはずです。
「VAIENCE」や「ファクトチェック・イニシアティブ」のサイトを確認すると、アーティストがインターネット上で作品を発表した後、第三者が「カモノハシの赤ちゃん」としてSNSで拡散してしまったことがわかります。その結果、グーグルの検索アルゴリズムで上位表示されるようになってしまったようです。
みなさんも落ち着いて読めば、画像検索で出てきたものを「ニセモノの画像」だと判断できるでしょう。ところが、写真説明を読み飛ばしていると、パッと見ただけで判断してしまうかもしれません。グーグル検索の上位にも「ニセモノの画像」が出てくる恐れがあるのです。
画像は本物だが、添えられた説明が間違いなケースも
私は現在、インフォハントという会社を立ち上げ、主に中学や高校でメディア情報リテラシーやファクトチェックの授業をしていますが、ある中学校でこの「カモノハシの赤ちゃん」クイズを出題した時には、「早く見つけられた人、上位3人にステッカーをあげます」などと速さを競わせたこともあり、引っかかってしまった生徒たちがいました。
生徒たちは早く正解を出そうと焦ったことに加え、「検索したら上のほうに出てきたから本物だと思ってしまった」と言います。
こうした事例はほかにもあります。たとえば、2016年4月の熊本地震の際に、「うちの近くの動物園からライオン放たれたんだが 熊本」のコメントとともに市街地を歩くライオンの画像をツイッターに投稿したケースです。
この投稿は拡散されて大騒ぎになり、「もしかしたら」と不安に思った大勢の人たちが、真偽を確かめるべく熊本市内の熊本市動植物園に電話しました。熊本市動植物園の職員は100件を超える電話対応に追われることとなり、熊本県警はツイートをした神奈川県の男性を偽計業務妨害の疑いで逮捕。男性はその後、不起訴処分(起訴猶予)となりました。
厄介なのは、この画像そのものは本物であることです。朝日新聞のwithnewsはこの写真の出所を調べ、南アフリカのヨハネスブルクで、映画の撮影中に撮られたものだったと報じています。つまり「動物園から逃げ出した」というのはウソ情報ですが、市街地にライオンがいるという画像そのものは本物で、ウソではないのです。
よくみれば、映り込んでいる信号の形式などは明らかに日本ではありません。早とちりをしなければ、ウソ情報だと見抜けるはずですが、混乱の中で「多くの人に知らせなければ」という善意を持った人たちによって、こうしたデマはあっという間に広がってしまいます。