資本主義社会の「資本家」としての自覚

私たち一人ひとりが実践していくべきことはなんだろうか。まずは働き手としてイノベーションを起こしていくことが重要だろう。しかし、私たちには、働き手としての立場以外にも、消費者であり、有権者であり、様々な立場がある。各々の立場で実践できることはたくさんある。

まず、はじめに、私たちは一人ひとりが、現代の資本主義社会の「資本家」となっていることを自覚することだ。この社会は、誰か一握りの特権的な「資本家」によって動かされているのではない。機関投資家という仕組みを通じ、戦後、私たち一人ひとりが「資本家」という地位を獲得した。これは人間社会にとって大きな成果だと言っても過言ではない。

だが私たちは、あまりにもこのことに無自覚すぎる。例えば、ブラック企業で働いていることに腹が立ち、新たな稼ぎを得ようとネット証券で口座開設し、短期的なリターンを狙って投資を始めたとする。

当然、短期的なリターンを求める投資家が増えていけば、証券会社も運用会社も投資先の企業に短期リターンを求めるようになる。そうなれば、企業自身も短期的な利益を増やそうと、従業員に対しブラック企業化していく。結局は自分の投資行為が、自分の勤務先をブラック企業にしてしまっていたりするわけだ。こういう構図に私たちは早く気づくほかない。

写真=iStock.com/samxmeg
※写真はイメージです

私たちの投資行動が社会の寿命を左右する

資本主義の社会で、資本家の意思は大きく波及する。私たちが、株や債券や投資信託に投資をする際に、短期的なリターンを追求すれば、自ずと社会全体もそのような動きとなり、長期的な目標は蔑ろにされていく。企業も短期的な利益追求に邁進し、持続可能な社会とは真逆の方向に世の中を誘っていくだろう。

一方で、私たちが、カーボンニュートラルやネイチャーポジティブを投資行動において意識すれば、社会もそのような方向へと向かっていく。社会の舵取りは私たちに委ねられているのだ。

日本では最近、「最近の若い人はSDGsへの関心が高い。時とともに社会のSDGsへの意識は上がっていくだろう」と言われることが多い。だが、残念ながら調査データからはそのような事実は確認されていない。確認されているのは、若者の関心が二極化しているという実態だ(*2)

(*2)ボストンコンサルティンググループ(2021)“サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査”