不毛な喧嘩をしている余裕はない

この海の危機に立ち向かうには、漁業関係者の理解と連携が不可欠だ。目先のメリットやデメリットを気にして、不毛な喧嘩をしている場合ではない。

今起きていることは、まさに地球規模の海の危機だ。われわれだけでは、いくら頑張っても現状は変えられない。

少しでも海の汚染を減らし、新鮮で安全な魚を消費者に届けるために、この活動をもっともっと全国に広げていきたい。それは日本の海を守ると同時に漁師たちの生活を守り、食の安全を守ることになるはずだ。

2014年4月にスタートさせた「GHIBLI」には、私たちのそんな思いが詰まっている。

コロナが転機になった

法人成りから3年、2017年にGHIBLIは単年で黒字化を達成。2020年決算では累積赤字を解消することもできた。この数字はGHIBLI単体のものだが、GHIBLIが黒字になるということは当然、船団丸事業に参加している各地の船団のふところも潤ったことになる。

坪内知佳『ファーストペンギン シングルマザーと漁師たちが挑んだ船団丸の奇跡』(講談社)

漁師たちから長年抱えてきた漁協からの造船の借金をすべて返済できたと聞いたときは、本当に嬉しかった。

事業が進展したきっかけは、図らずもコロナ禍だった。

2020年、GHIBLIは累積赤字解消目前というところでコロナに直面した。売り上げも大きく減少し、日本中がステイホームになった。あの2月、海外出張から戻った私は1カ月ほど世の中がどう動くか慎重に様子を見ていた。

それまではホームページから注文を受けていたが、見たこともないくらいの個人宅配のオーダーが入り始めるのに時間は掛からなかった。私はすぐにECサイトを立ち上げるべきだと判断し、行動に移した。

加工事業に乗り出すことを決めたのも、この時期だ。飲食店と違って個人消費者のなかには、鮮魚を送られても調理に困る人が多いだろうと考えたからだ。

大口の飲食店向けの売り上げが減るなかでECサイトを作り、加工場を新規に建てることで再び借金が膨らんだ。せっかく利益が出始めたのにまた借金するのかと批判も受けたが、この判断が事業化から「10年の壁」を乗り越える大きな転機になったことは間違いない。