根はマジメなので、テスト前には「赤点は取らないようにしよう」とこっそり勉強した。高校3年生になって進路を意識し始めると、「ちゃんと人の役に立てる大人になりたい。好きなことで誰かの役に立てるって素敵だな」と考えた。

学校で国語の授業を受けていた時、ふと「国語は得意だし、高校の国語の先生になろう!」と思い立ち、大学に進学した。

両親の店を継いだ“あるきっかけ”

大学に入って想定外だったのは、同級生にギャルがひとりも見当たらなかったこと。周囲と話が合わず、明らかに浮いてしまった。そのうえ、授業についていけず、大学2年生になって小学校でインターンを始めた時、心が折れた。

晴れ着姿で友人とプリクラに写る榊さん(左)写真提供=榊さん

「当時の私は見た目が派手だったから、担当の先生からすごく嫌われちゃって。嫌われたくないと思って焦るとミスるじゃないですか。それで空回りして、めちゃくちゃ怒られて。私は子どもを伸び伸び育てるような先生になりたかったけど、その前に職員室での人間関係が怖いし、先生に向いてなかったと思って、諦めました」

目標を失った榊は、ほとんど大学に行かなくなった。この頃、母親が病に倒れ、入院する。ある日、病院に見舞いに行くと、病室で両親がなにやら深刻な様子で話しているのが聞こえた。ただならぬ様子に、榊は足を止めた。ふたりは、「これからお店をどうするか」を話し合っていた。

父親と一緒に「をかの」を支えてきた母親が初めて不在になり、その存在の大きさが明らかになったのだろう。「もし店を潰すなら、これからどうするのか考えなきゃな」という父親の言葉を耳にして、動揺した。

筆者撮影
店内に飾られたかつての「をかの」の店舗

「お店がなくなるとしたら寂しい。でも、私は気が弱くて人の後をついて行くタイプだから、継ぐのは絶対無理。どうしよう……」

モヤモヤした思いを抱えながら、1週間が過ぎた。自宅からコンビニに向かっていたら、向かい側から小学校の同級生の母親が歩いてきて、「久しぶり! 元気?」と声をかけられた。

「今、なにしてるの?」
「大学に行ってます」
「そうなの⁉ お店継ぎなよ!」
「え⁉ なんでですか?」
「小学生の時にそう言ってたじゃん。いまだに、あれは良かったよねって話題になるんだよ」

榊は驚いた。なにもおぼえていなかったのだ。すぐ家に引き返し、小学校の卒業式の時に撮ったビデオを引っ張り出した。再生すると、幼い自分がカメラに向かって一生懸命に話していた。

「お父さんとお母さんがやっている仕事を、私もやりたい。それで楽させてあげたい」

その言葉を聞いた瞬間、身震いした。大学にも行かず、ダラダラとバイトしている今の自分と比べて、小学生の自分はまっすぐで、かっこいいと思った。

写真提供=榊さん
派手な髪型やメイクは自分を守るためでもあった