参入も撤退も速かったマクドナルド

外食産業のなかで最速でロシア撤退を完了させたのは、冷戦終結後のソ連(当時)にいち早く進出したマクドナルドであった。同社はロシア国内の850店舗のうちの8割以上を直営店として所有・経営しており、権利関係がさほど複雑でなかったことも幸いした。

マクドナルドは5月19日、ロシアからの撤退と25店舗のフランチャイジーであった実業家アレキサンダー・ゴボル氏への事業売却を発表すると、6月2日には政府から撤退の許可が下り、6月12日には後継ブランド「フクースナ・イ・トーチカ」が開店するという異例のスピードで撤退を実現させた。売却価格は「破格の安値」とだけ報道されたが、撤退に伴う損失は12億ドルに及んだ。

日系企業は台湾有事にどう備えるべきか

ロシア政府による対抗措置の効果なのか、撤退を表明した多国籍企業は依然として2割にも満たない。その背景には、ロシアからの撤退を希望する企業の前に、あまりにも多くの困難が立ちはだかっているという現実もある。

消費者や労働者からの訴訟リスクを回避しつつ、また撤退時の自社技術や機密情報の流出の可能性にも留意しつつ、西側の制裁に抵触しない買い手候補を見つけ、売却条件について交渉・合意したのち、最後には自国政府と敵対するロシア政府から撤退の許可を得る必要がある。西側企業の幹部が国外に退避している場合、一連の意思決定を海外からリモート環境で下す必要もある。

有事の際、非友好国から企業が撤退するための道のりは長くて険しい。また「経済制裁」という伝家の宝刀を抜いた場合、無視できない規模の損失と負担が制裁発動国の企業にも重くのしかかることが改めて確認された。

地政学的リスクが高まるなか、次なる有事、すなわち台湾をめぐる有事の可能性もささやかれている。ロシアでの経験をふまえ、官民が連携しつつ、日系企業の中国や台湾からの撤退シミュレーションや具体的な戦略策定を早期に行っておくことが必要かもしれない。

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