「今後は近づきやすい市長や地方議員が標的になる可能性がある」

もちろん、下院議員などは事情が違います。2011年1月、アリゾナ州選出のガブリエル・ギフォーズ下院議員(民主党)は同州ツーソンで有権者との対話集会を催した際、男に銃撃され、暗殺未遂に遭っています。

当時、私は、同事件直後に開かれた、あるカンファレンスに登壇し、以下のように話したことを覚えています。

「警護が厳格な大統領や首相には容易に近づけないが、もっと下のレベルの政治家はその限りではない。怒りを胸にため込んだ人間が大統領を狙えないことに腹を立て、今後、近づきやすい市長や地方議員などをターゲットにするのではないか」と。

繰り返しますが、有権者との集会では、ある程度の距離が必要です。当然ながら、制服警官の配置も必要です。警官の存在をアピールすることには、政治家を狙う危険人物を追い払い、暗殺を思いとどまらせ、事件を未然に防ぐ効果があるからです。

レーガン大統領の命を救ったアメリカの警護と日本の警護の違い

——1981年3月30日、首都ワシントンで、ロナルド・レーガン第40代大統領(共和党)の暗殺未遂事件が起こりました。レーガン大統領は胸を撃たれたものの、シークレットサービスは身を挺して、大統領の命を救いました。現役大統領と元首相という立場の違いがあったとはいえ、安倍元首相の事件と比べ、警護上、何が最も違っていたと思いますか。

レーガン大統領の命を救ったシークレットサービスは本物のヒーローです。文字どおり、自分の体を投げ出し、大統領を守ったのですから。犯人がもう1発撃っていたら、銃弾がシークレットサービスの胸に命中し、彼は命を落としていたでしょう。

彼らは、頭部を撃たれたジェームズ・ブレイディ大統領報道官を素早く地面に押し倒し、大統領をリムジンに押し込みました。

一方、安倍元首相の事件では、警護の人々が山上徹也容疑者の接近を許してしまいました。銃を所持しているような怪しい人物が周りにいないかどうかを察知し、その人物が安倍元首相に近づくのを阻止できればよかったのですが。

——日米の要人警護は大きく違うと思いますか。

そうですね。1つ言えることは、アメリカの警察はものすごく実践を積んでいるため、警護に長けているということです。日本と違い、戦争も数多く経験しています。警察も取り締まりに長けています。

犯罪が少なくても訓練を積むことはできる

——日本が安全で平和な国であるからこそ、日米の要人警護に差が出てしまったのでしょうか。

殺人発生率も日米では大きく違いますし、日本は非常に安全な国です。しかし、犯罪が少なくても、訓練を積むことはできます。

とはいえ、日本の政治家が自国の治安の良さから、自分たちの身をまあまあ安全だと考えているとしても、非難する気にはなれません。日頃、暴力を想定する必要がないほど安全な国であるという事実はいいことなのですから。