元首相に付くSPが1人では十分ではない

——日本でも、要人警護は、「SP(セキュリティーポリス)」と呼ばれる警察官が担当しますが、元首相に付くSPは1人だけです。安倍元首相が銃撃された際には地元の警官も警護に当たっていましたが、十分ではありませんでした。岸田首相も7月14日には、「率直に言って、警備体制に問題があったと考えています。全面的に点検をし、正すべきことは早急に正してもらいたい」と、懸念を表明しています。

首相経験者を護衛するSPが、たった1人ですか。しかし、そんなことを言っても、すべては後の祭りです。聴衆が元首相に近づけること自体に懸念を感じます。

米警護当局は大統領選の候補者が有権者と握手するのを嫌がり、候補者と有権者との間に距離を取ろうとします。過剰な警護にも懸念はありますが、有権者との間に少なくとも一定の距離を保てるような態勢を敷き、要人の周りに「防壁」を築く必要があります。

日本は武器類の規制でアメリカに勝っていますが、元首相に付くSPが1人では、十分と言えないかもしれません。公衆との間にさらなる距離を確保し、もっと強固な防壁を築くための警護陣営が必要です。

一方、政治家が有権者から物理的に遠ざかってしまうと、「民主主義」の本質が失われるというリスクが生じます。難しい問題だけに、日本の人たちが決めるべきことだと思います。

要人警護と民主主義のバランス

——選挙戦では有権者との触れ合いを重視し、厳格な警護を嫌う政治家もいると聞きます。

私自身は民主主義を大いに信奉し、政治家と有権者の触れ合いを大切なことだと思っています。ただ、同時に、政治家が銃撃されてもいいとは思いません。つまり、空港の警備と同じ論理です。いったん空港に足を踏み入れたら、(テロ防止のために)残念ながら、多くの権利を放棄しなければならないでしょう?

政治家も同じです。世界は危険に満ちているのですから、有権者との触れ合いには、ある程度の距離が必要です。

1977年のことです。1月20日、ジミー・カーター第39代大統領(民主党)は、連邦議事堂からホワイトハウスまでの就任式パレードで車から降り、人々と握手を交わしました。民主主義を固く信じているということを行動で示すためです。

しかし、今の時代、もうそんなことはできません。大統領や大統領候補者が有権者と触れ合うには、事前に周到な準備が求められます。多くのシークレットサービスや制服警官を配置し、群衆に私服警官らを潜り込ませ、政治家と有権者との距離を取るなど、当局が至る所で目を光らせています。

シークレットサービスのエージェント
写真=iStock.com/jackethead
※写真はイメージです