旧統一教会問題に加え、安倍晋三元首相の国葬を実施したことで、岸田政権に想定外の逆風が吹いている。米大統領の暗殺事件に詳しい米モンクレア州立大学のケーリー・フェダーマン准教授は、「指導者の死から故意に何かを得ようとしてはいけない。そうした動きには警戒が必要だ」という。NY在住ジャーナリストの肥田美佐子氏がリポートする――。(後編/全2回)

「暗殺」の動機は必ずしも政治的ではない

――まず、「assassination(暗殺)」という言葉についてですが、欧米メディアは、安倍晋三元首相の事件を「assassination」と報じました。一方、日本の主流メディアは、いわゆる政治テロではなく、個人的怨恨えんこんが動機とみられているためだと思われますが、「暗殺」という言葉を使わず、「銃撃事件」などと報じています。

1901年9月6日、アメリカ大統領ウィリアム・マッキンリーが暗殺された事件
1901年9月6日、アメリカ大統領ウィリアム・マッキンリーが暗殺された事件(画像=T. Dart Walker/アメリカ議会図書館/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

英語で「assassination」と言うとき、(動機は)必ずしも政治的なものとは限りません。

著書『The Assassination of William McKinley: Anarchism, Insanity, and the Birth of the Social Sciences』(『ウィリアム・マッキンリーの暗殺 アナキズム(無政府主義)、狂気、そして、社会科学の誕生』未邦訳)でも書きましたが、暗殺犯の動機は政治的なものばかりでなく、実に「個人的」かつ「心理的・精神的」なものです。と同時に、「社会学的」で「論理的」な側面もあります。

日本政治は私の専門外のため、限られた情報に基づいた個人的見解ですが、山上徹也容疑者は、アメリカ型の「暗殺犯」という枠にぴったり当てはまると思います。

ただ、アメリカでも、被害者が政治的職業の人でないと、「暗殺」という言葉は使いません。一般人が撃たれた場合は、「銃撃事件」「殺人事件」です。そうした意味では、英語の「暗殺」にも政治的な意味合いが含まれますが、動機は精神的・個人的なものでも、「暗殺」と表現します。

2015年10月9日、バージニア通りを警備するシークレットサービスの2人のメンバー
写真=iStock.com/400tmax
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山上容疑者は、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に多額の献金をして破産したことから、旧統一教会を恨みに思い、(教団の関係団体にビデオメッセージを送った)安倍元首相を暗殺したと聞いています。背景に母親が介在しているという意味で、これ以上「個人的」な動機はありません。