なぜ要人暗殺犯は「無職」が多いのか

また、家庭が破産したこと、つまり「経済的」な要素も含まれていますよね。彼自身も仕事がなかったと聞いています。1881年にジェームズ・ガーフィールド第20代大統領(共和党)を暗殺したチャールズ・J・ギトーも失業していました。1901年にウィリアム・マッキンリー第25代大統領(共和党)を暗殺したレオン・チョルゴッシュも、仕事がありませんでした。20世紀初頭のヨーロッパで政治家を狙った暗殺犯らも無職でした。

つまり、いずれのケースにも「経済的」な要素が絡んでいたのです。単に仕事がないというだけでなく、「構造的」な動機と言っていいかもしれません。例えば、「経済も社会全体も政権与党も、何もかもが俺に不利なことをする」といった考え方です。

仮に山上容疑者もそうした考えを持っていたとすれば、その対象が自民党(の安倍元首相)だったのでしょう。そして、その対象を暗殺することで、恨む気持ちが軽減するものだと考えられます。そうした意味で、暗殺は「心理的・精神的」な動機に深く根差しているのです。

というのも、暗殺には「目的」があり、その目的とは、自分の衝動や欲求、怒り、逆境を自分の中から解放し、和らげることだからです。

山上容疑者と大統領暗殺犯の共通点

――あなたは、著書『The Assassination of William McKinley』(『ウィリアム・マッキンリーの暗殺』)の中で、マッキンリー大統領の暗殺犯について、独特の分析手法を展開しています。山上容疑者をどのように分析しますか。

返答が非常に難しい質問ですね。まず、山上容疑者については限られたことしか把握していませんし、私は、銃撃犯やシリアルキラーなどのプロファイリングを行う犯罪学者ではなく、政治学者です。

この点を十分に理解してもらった上で、あえて答えますが、山上容疑者は、いわゆる「暗殺犯」のプロファイルに合致すると思います。

そもそも、アメリカで暗殺犯のプロファイルという概念が確立されたのは、マッキンリー大統領が凶弾に倒れたことがきっかけになったと、私は考えています。

注:ウィリアム・マッキンリー大統領は、エイブラハム・リンカーン第16代大統領とジェームズ・ガーフィールド第20代大統領に続いて暗殺された3人目の米大統領。

山上容疑者は、比較的裕福な家庭に生まれたと聞いています。しかし、その一方で、友人が少なく、孤独で非社交的なタイプだったそうですが、孤独で非社交的という特徴は、マッキンリー大統領を暗殺したチョルゴッシュや、ジョン・F・ケネディ第35代大統領(民主党)の暗殺犯とされるリー・ハーヴェイ・オズワルドにも当てはまります。

注:ジョン・F・ケネディ大統領は、暗殺された4人目の米大統領。