ゴリゴリの営業パーソンが魅了された西伊豆の風景
筆者はコロナ禍を機に、全国を旅しながら仕事をする“ワーケーション”(ワーク×バケーションの造語)に身を投じた。辺鄙なローカルを回り、その土地の起業家達をインタビューしていると、クセが強めの奇人・変人に出会うことが多い。
なかでも、パンチが強いキャラの持ち主が、橋村氏だった。
「ビジネスをする相手がたとえ大企業であっても、決して低姿勢に出ない」
「自己肯定感の高さが自慢」
「忙しくてもトラブルがあっても、三度の飯をきちっと食べるし、布団に入ればすぐに眠れる」
と自ら言い放つ強いハートの持ち主。Tシャツ&半ズボンとキャップ姿が定番スタイルで、誰よりも大きな声で話す“陽キャ”。会社が経営的に苦しい時期でも、「彼が落ち込んでいるところをまず見たことがない」と同社の社員は言う。
橋村氏は1973年、佐賀県生まれ。中央大学を卒業後、テレビ局の営業パーソンを経て、ITベンチャーに参画しIPOを経験した。昭和のゴリゴリの営業スタイルで心身を病むメンバーが続出したが「その中で大自然の中で行ったキャンプ体験で心が癒やされた人が多く、チームの絆が高まったのです。離職率が低くなり、生産性が高まったので、これはビジネスチャンスになるなと思っていました」と橋村氏。
その後、中国に渡るも、キャンプ事業への思いが募り退職。静岡県西伊豆で、船でしか行けないグランピングに最適な場所を見つけた。まだ、「グランピング」という言葉が全く世の中に認知されていない時代だ。
“不法侵入”状態で、一人黙々と整地した伊豆の辺境地
その辺境地に上陸した橋村氏はたった一人夢中で整地して開墾を始めた。ところが、そこは、無人村と思いきや地権者がいて、“不法侵入”という状態に(のちに地権者と和解)。そのうち経済的に苦しくなり、資金をかき集めて2012年に「ヴィレッジインク」を創業。不法侵入した土地は「AQUA VILLAGE」という名称で、最大200人の収容が可能な1日1組だけが楽しめるグランピング場になった。
西伊豆の海と夕陽を独り占めできる絶景と、船で海から上陸するというワクワク感&特別感が人気を呼んだ。しかも、天候が悪くて乗船できなければ、ゲスト自らが急な山道を登り降りしてキャンプ場に行かなければならない。場合によっては、ゲストにしんどい思いをさせる“ドSタイトル滞在”に。しかしこれもまたいい思い出になりうる。