トランプ氏の当選を支えたのも福音派だった

政治と宗教がお互いのメリットのために助け合っただけではない。福音派は共和党そのものも変えていった。

もともと共和党の保守主義は、主に経済政策に反映されていた。「小さい政府」を目指す、つまり社会保障などの支出は抑え、企業への課税や規制なども最小限にして、自由な経済活動を進めるというポリシーだった。はっきり言えば、それ以外のことはどうでもよかったのである。

ところが、福音派と関係を深めたことで変わり始める。文化的思想でも保守の立場をとるようになったのだ。

同性婚など、旧来の家族の価値観に反するあらゆる権利に反対し、今や福音派とほぼ同じポリシーを共有するに至ったのである。

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同時に福音派は、宗教右派と呼ばれる政治的なグループとしても力を増していく。最大の恩恵を受けたのは、2016年大統領選に出馬し、当選したドナルド・トランプ氏だ。

「Make America Great Again(アメリカを再び素晴らしい国に)」というスローガンは、「かつての保守的なアメリカに戻ろう」というメッセージの、耳障りのいい言い換えだ。

それでもトランプ氏が大々的に中絶禁止を公約した時、多くのアメリカ人は「そんな事ができるわけがない」と相手にしなかった。しかし、その言葉を信じた福音派の実に8割がトランプ氏に投票し、当選を果たすことになる。

「中絶禁止」は、もともと最高裁まで争う計画だった

トランプ氏は当選すると、3人の保守派判事をかなり強引なやり方で最高裁に送り込む。結果保守派判事6人に対しリベラル派は3人で、圧倒的な保守系多数となった。

つまり、より保守的な法案が合憲と判断されやすくなったわけだ。

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同時に共和党は州法に目をつける。中絶を大幅に制限する法律を、保守色が強い州で次々に制定。これは最初から「違憲」で訴えられるのが目的だった。訴えられれば上告し、最高裁の判断を仰げるからだ。

最終的に超保守化した最高裁に持ち込み、「中絶は憲法違反」という判断を取りつけた。目論みは見事に当たり、今日に至る。

保守系に塗り替えられた最高裁の判断は、トランプ氏が去ってから威力を発揮し始める。中絶以外にも、国の指針に関わる重要案件に対してかなり右寄りの判断を行っているのだ。