最高裁判決の直後、保守系州で次々と禁止に
日本では安倍元首相の銃撃事件をきっかけに、政治と宗教の関係が大きくクローズアップされている。これはアメリカでも同様で、特に共和党出身の大統領ら政治家と、統一教会が深くつながっていることを前回お伝えした。
伝統的なキリスト教とアメリカ政治との関わりは深く、時に国論を二分する政治問題を引き起こす。それをはっきりと示しているのが、日本でも話題になった「中絶の違法化」である。
当然であるはずの権利が、なぜ今奪い取られることになったのか? その経緯を改めて検証すると、アメリカ政界と宗教団体がお互いの利益のために、強く結びついた結果だということが、はっきりと見えてくる。
6月24日、アメリカ最高裁は「合衆国憲法は、人工妊娠中絶する権利を認めていない」という判断を下した。その直後から、保守色が強い州で中絶が次々に禁止となった。全米で抗議行動が続き、ニューヨークでは1万人規模のデモも行われた。
人気ロックバンド「グリーンデイ」のビリー・ジョー・アームストロングは「もうアメリカ人でいたくない」と怒りをぶちまけ、レディー・ガガ、ビリー・アイリッシュ、オリビア・ロドリゴ、ハリー・スタイルズら、多くのセレブも抗議の声明を出した。
「少数派の意見が通るなんて狂っている」
ニューヨークの若者に話を聞くと、中には怒りや焦燥感を口にし、涙ぐむ者も。
「ショックだわ。50年間あった権利が突然取り上げられた。女性に対してこんなことができる国に腹が立つ」。そう憤ったのは、24歳の大学院生マッケンジーだ。23歳のマデリーンも「自分の体なのに思い通りにできないなんて、とても信じられない」と、苛立ちを口にした。
世論調査では、アメリカ人の過半数が「中絶は合法であるべき」と考えている。特に18~29歳の、これから子供を産み育てる年齢の若者たちは、75%が中絶を支持しているというデータもある。
マデリーンは言う。
「アメリカのマジョリティは、安全な中絶を続けてほしいと考えている。なのに少数派の意見が通ってしまうなんて、狂っているとしか思えない」
人工妊娠中絶は、ただの医療措置ではない。「女性が自分の体と人生に関する選択を、自身で決めることができる」という権利の象徴でもある。それが失われたことで、女性の権利は50年前に後退し、男性より一段低い地位に貶められたという衝撃は大きい。