1945年、アメリカ情報機関は日本軍と中国共産党軍が戦う中国国内に工作員チームを派遣した。彼らが目にした戦争の実態とは、どんなものだったのか。評論家の江崎道朗さんが監修した『インテリジェンスで読む日中戦争』(ワニブックス)より、一部を紹介する――。

※本稿は、江崎道朗監修・山内智恵子著『インテリジェンスで読む日中戦争』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

兵士
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「中国共産党は共産主義者ではない」という神話

1930年代から第二次世界大戦後にかけて、アメリカの世論やアカデミズムや軍と政府の要人たちの間で、中国共産党について2つの「神話」、つまり、根本的に間違った2つの知識が信じられていました。

1つは、「中国共産党は共産主義者ではない」というものです。1930年代、中国共産党は封建的な土地制度の改革を求めている農業改革者であって、「共産主義では全くない」という見方が「ノーマルな」ものとして受け入れられていました(バーバラ・W・タックマン『失敗したアメリカの中国政策 ビルマ戦線のスティルウェル将軍』p184)。

この間違った理解が広まった背景には、ソ連と中国共産党の巧みな宣伝工作がありました(佐々木太郎「太平洋戦争下におけるアメリカと中国共産党のインテリジェンス関係」、軍事史学会編『日中戦争再論』p266,269)。

第二次世界大戦でソ連がドイツに対して攻勢に転じ、戦況が改善してきた1943年夏頃になると、腐敗している国民党の蒋介石政権よりも、中国共産党の方が「民主的」であり、大衆の支持を得ているという宣伝がアメリカを中心とする国際社会において強化されていきました。

そうした宣伝の中には、「[中国共産党が全綱領の基礎としている土地改革を]共産主義と呼ぶことは、どんなに概念を拡張してもできないだろう。これこそ農業社会に適用されたブルジョワ民主主義に他ならない」と主張するものさえあります(Thomas Bisson, China’s Part in a Coalition War, Far Eastern Survey, Vol.XII, No.14, July 15, 1943. 日本語訳は長尾龍一『オーウェン・ラティモア伝』p65)。

この宣伝に乗ってしまった人々が米軍や米政府の幹部の中に大勢いました。

共産主義や中国共産党の実態に対してあまりにも的外れな理解だったとしか言いようがありませんが、これは決して過去の問題ではありません。