工作員チームの任務は汪精衛軍との協力関係を探ること
1945年5月、対外情報機関の戦略情報局(the Office of Strategic Services/OSS)は、コード名を「スパニエル」という工作員チームを河北省阜平に派遣しました。阜平というのは、日本の占領地区からわずか800メートルの地点で、中共の支配地域でした。スパニエル・チームがパラシュートで着陸したところ、事前に連絡を受けていなかった地元の中国共産党員が直ちに全員を拘束し、監禁しました。
中国戦域米軍司令官のアルバート・ウェデマイヤーは、汪精衛軍に賄賂を払って武器を買うための費用を中共から求められたことがありますから、中共と汪精衛軍との間に相当のコネがあることは当然わかっていました。中共は、汪精衛軍と上手く接触できるのは自分たちだけだと主張していましたが、中共が汪精衛軍から手に入れる武器はいずれ中共と国民政府との決戦に使われるはずです。なので、ウェデマイヤーは、汪精衛軍とのコネをアメリカの金と武器を得るための中共の専売特許にさせておくわけにはいかないと考え、米軍が自ら汪精衛軍との協力関係を作るべきだと決意しました(OSS, p.220)。
スパニエル・チーム派遣の目的は、汪精衛軍の将軍たちと協議して、情報収集や工作のためのネットワークの構築、心理戦のための基地設置、日本軍の通信線や重要インフラに対する破壊工作などについて、どのような協力が取り付けられるかを知ることにありました(OSS, p.221)。
OSSの活動を阻止しなければならない4つの理由
中国共産党としては、OSSが中国北部で独立して活動するのを絶対に許すわけにいきませんでした。
第一に、自分たちだけが汪精衛軍と上手に接触できるという主張の信頼性がなくなります。第二に、中国北部で中共と汪精衛軍がずっと協力してきたことが露見すれば、ワシントンと重慶から非難される恐れがあります。第三に、OSSと汪精衛軍が協力したら、汪精衛軍は中共軍を敵として戦うようになる可能性があります。第四に、事前通告なしでOSSが中国北部に入ってくれば、中共が日本軍と激戦しているというプロパガンダの嘘が明るみに出てしまいます。
スパニエル・チームがパラシュート降下してきたのは、まさに中共軍と汪精衛軍が平和共存している地域でした。放っておけば、スパニエル・チームはこの地域の実情を報告するにきまっています(OSS, pp.221-222)。
事実、スパニエル・チームは拘束される前に、「八路軍(中共軍)によって行われた実際の戦闘は非常に誇張されている。日本軍や汪精衛軍と真剣に戦わないことが中共の方針であり、時々奇襲攻撃を行った程度だった」とウェデマイヤーに報告を送っていました(p.183)。